→INDEX ■■■ 「古事記」解釈 [2021.8.14] ■■■ [225] 水漬田の野老葛は意味深 水田に山芋とはどういうことだろうか。・・・ 《倭建命薨去譚@[12]景行》 水漬きの田の稲柄に 稲柄に 匍匐廻ろふ 野老葛 そもそも、野老という用語自体がなんだかわからない代物。しかし、そのような用例が大陸に無いなら、海老⇔野老(螺⇔田螺は巻貝で同等で当然だが、こちらは無理矢理つけた呼び名。)ということでの命名と考えるしかなさそう。海人の精神忘れずというよりは、長寿祈願奉納の海老が調達できない場合もあろうから、代替品を設定したと考えるのが自然だ。 ただ、野老(葛)がどのような植物を意味しているかは、古い文書に記載があるので、トコロと呼び山芋を指すことは確実である。もっとも、そのお蔭でさらに違和感を覚えることになるが。 山芋は、海老の長い髭に相当する姿との感覚がわかりにくいが、髭根長いから、海の根の生き物と同等な山の根の生き物ということか。地域によっては、鬼ドコロの根を正月飾りにする風習が残っていたりするらしい。 しかしながら、それで落着とはいかない。 「古事記」の歌の調子からすれば、山芋がは水田に生えていたことになるからだ。そんな場所に自然繁殖する訳もないから栽培品と見なすことになるが、現代のパイプ栽培を見る限り水田利用は極めて考えにくい。どうもしっくりこないのである。 実情のほどがよくわからないものの、トコロは重視されていたと考えられていlる。ただ、野老という表記ではなく、冬薯蕷葛であるが。・・・ (芳野作) [「万葉集」巻七#1133] 皇祖神之 神宮人 ところづら[冬薯蕷葛] いやとこしくに我れかへり見む 見菟原處女墓歌一首[并短歌](高橋連蟲麻呂之歌集中出) [「万葉集」巻九#1809] ・・・ところづら[冬ふ蕷都良] 尋め行きければ[尋去祁礼婆]・・・ これからすると、海老とは関係なしに、祭祀にかかわる重要な植物だったと考えざるを得ない。 常識的には、芋類は極めて重要な作物だった筈で、と言うより手間がかかる穀類栽培が軌道に乗る前は主食作物とされていたに違いないからでもある。(現代でも、政治が絡まなければ、主食生産量の圧倒的なトップだった筈。) 当然、古代はど、様々な栽培種が存在していたと見るべきだろう。そのため、現在の状況は交雑が激しい筈で、分類は目安でしかない可能性が高いが、全体で見るとこんなところか。・・・ <タ ロ芋(里芋/田芋/水芋)/芋(頭)> <ヤム芋(山芋)/山藥> [熱帯由来] トコロズラ/冬薯蕷葛⇒トコロ/野老 大薯(台湾山芋)/参薯 ☚ …長芋系や自然薯と違ってムカゴ[零余子]無し。大きい塊が好まれる。 鬼野老/山萆薢…[倭] ☚ …根は魚毒(アルカロイド)含有。晒せば可食だろうが苦味は残ろう。 団扇野老/穿龍薯蕷 山常山 木通野老/五葉薯蕷 菊葉野老/綿萆蘚 姫野老/細柄薯蕷 立野老/縴細薯蕷 (棘野老)/甘薯@熱帯域と周辺(東南アジア〜南越〜中国南部) [中国由来] 長芋系 〇細長円柱形…長芋 ☚ 〇短太棒状…徳利芋 杵芋 〇扁平扇型…仏掌芋 銀杏芋 〇球形…大和芋 伊勢芋 豊後芋 捏芋(大薯とも。) [倭固有] 自然薯/野山藥(日本薯蕷) ☚ [琉球固有] 基隆山芋 こんな風に分類すると、"水漬田の野老葛"という表現が何を意味しているか見えてくる。冬薯蕷葛とも表記されるように、扇状地の水田でトコロと稲の二期作が広く行われていたとしか考えられないからだ。水漬させて掘り出し易くし、芋を取り出した後の蔓部分は放置し土地の栄養分にすればよいのだから。 尚、垂直に深く根を張る山芋や自然薯と違い、鬼ドコロの場合、根は横に這って行く。 倭建命の時代になって、芋栽培の地に水田農業が本格的に入って来たことを示唆する歌かも知れぬ。 (C) 2021 RandDManagement.com →HOME |