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■■■ 「古事記」解釈 [2021.10.8] ■■■
[280] 建が何故に猛となるのか
風土記に目を通すと、「古事記」での"建"の読みが異常であることに、今更のように気付かされることになる。

習い性で、倭建命を自然に"たける"と読んでしまうが、一般多用語をカバーしている筈のパソコンの漢字変換を使って書こうとすると、語彙は沢山並ぶものの、その中に入っていないので驚かされることを思い出す訳である。
 【一文字】猛 健 武 尊 丈 亘 伯 侃 傑 剛 威 etc.
 【動詞形】長ける 焚ける 炊ける
 【二文字】武尊 etc.

と言っても、序文で、慣用地名の注意書きをする位だから古代から、人名漢字も無理矢理の読みはあったのだろう。上記が示すのは、人気名称の当て字はいくらあってもおかしくないということ。だが、"建"だけは無い。おそらく"健"で十分なのだろう。

太安万侶は全く気にせず"建"を使っているが、固有名称だけでなく、散文までも。そこでは、明らかに、"猛々しい"という意味で。
しかし、漢字の"建[廴+聿]"には、もともと、そのような意味は全く無い。
それなら、割註で説明してもよさそうなもの。それをあえて避けたのだから、倭に限った一般用法か、意識的に敢えて使ったと見てよさそう。
   たけ-し[形容詞]【猛≒武】
   た-つ/たて-る/たけ-る[動詞]【建≒立・造】

"建る[たける]"という読みが伝承されていないなら、これは特別な表現であると考えるのが自然だが、それを窺わせるような情報は見かけない。
ただ、「老子」に例外。"建言"と云う通常用法では意味が通じない、"建徳"と記載されている箇所があり、もしかすると、この部分の解釈から来るのが太安万侶流の"建[たける]"感かも。・・・
上士聞道 勤而行之 中士聞道 若存若亡 下士聞道 大笑之
不笑不足以為道
建言有之:   …と云うことで、このような"建言"がある。
  明道若昧  …明るく見える道は、暗いようなもの。
  進道若退  …前に進めそうに見える道は、退いて行くようなもの。
  夷道若纇  …平らに見える道は、よじれアップダウンがあるようなもの。
  上コ若谷  …高く見える徳は、谷のように低きにあるようなもの。
  廣コ若不足 …広く見える徳は、不足状態にあるようなもの。
  建コ若偷  …健全に見える徳は、空っぽ状態にあるようなもの。
  質真若渝  …真摯質実に見える徳は、遷り易い状態にあるようなもの。
大白若辱 大方無隅 大器晚成 大音希聲 大象無形 道隱無名 夫唯道 善貸且成
  [「老子道コ經」四十一章]

それにしても、「古事記」の"建"は冒頭から実に面白い。現代で言えば、薩摩・土佐いごっそうが該当することになるし、熊襲対抗の肥国がならんでおり、肥後モッコスとぼっけもんそのままな印象を与えるからだが。
ただ、全編を通して絶対的敵対勢力はどうも出雲と熊襲らしいことがわかるが、吉備も問題児なのであろう。日本海・黒潮・瀬戸海で猛々しい輩という扱いか。成敗対象は色々とあるものの、名称と特定地名が結び付かないように配慮されていそうだ。

道教的なセンスがあるとすれば、その流れを汲むのは3柱であるとみなしていることになろう。
  大長谷若建命@長谷朝倉宮
  廣國押建金日命@勾金箸宮
  建小廣國押楯命@檜廬入野宮
初國之御眞木天皇や、皇子 倭建命を抱えた天皇、あるいは"武烈"との称号に決まった天皇は、何れも"建"には当たらないのである。流石に、"雄略"は該当するものの。
一方、記載事項が無く、どのような姿勢だったのかも不明で、"安閑"や"宣化"といった称号に猛々しさが示されているとも思えず、わかりにくい。

このことは、恣意的に作られるイメージに惑わされるな、との太安万侶の警言にも映る。
事績はその天皇の特徴として編纂者が勝手に選んだ話だが、宮名では無い御名の方は人々の篩を通して残ったものだから、その意味を的確に判断し、その意味を伝える文字を与えれば、その天皇の本当の姿が見えてくる筈との主張の可能性も有り得るのでは。

---㊤---
○国生み
  [伊豫之二名嶋-土左國]依別
  [筑紫嶋-肥國]日向日豐久士比泥別
  [筑紫嶋-熊曾國]日別敵対軍事勢力
  [次-吉備兒嶋]日方別
○神生み(御刀本血@迦具土神)
  御雷之男神/布都神
○三貴神
  [洗御鼻]速須佐之男命
○高天原騒動
  [天照大御神] "イト[伊都] 之男建[多祁夫]"
○五柱子(八尺勾璁之五百津之美須麻流珠)
  [天菩比命の子]比良鳥命
○国譲
  [伊都之尾羽張神の子]建御雷之男神
  [大國主神の子]御名方神敵対軍事勢力
○天孫国
  天津日高日子波限鵜葺草葺不合命
---㊥---

  "爲男建而崩"
  建御雷神
  八十
  沼河耳命






  若日子吉備津日子命

  少名日子猪心命
  波邇夜須毘古命
  (建沼河別命)
  内宿禰

  豐波豆羅和氣王
  春日國勝戸賣之女

  甕槌命之子
  [皇子]沼河別命
  波邇安王

  (倭建命之后)

  若吉備津日子之女
  (倭建命之曾孫)
  倭
  "惶其御子之建荒之情"
  熊曾[二人]敵対軍事勢力
  "於西方 除吾二人 無建強人"・・・"建男者坐祁理"
  出雲敵対軍事勢力
  御鉏友耳日子
  若[倭建命+弟橘比賣命 御子]
  吉備日子之妹吉備比賣 & [子]貝兒王

  忍山垂根之女
  建内宿禰

  建内宿禰大臣
  難波根子振熊命

  伊那陀宿禰之女
  建内宿禰大臣
---㊦---

  建内宿禰大臣




大長谷若





廣國押金日命
小廣國押楯命






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