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■■■ 「古事記」解釈 [2022.2.24] ■■■
[419][寄り道]英訳古事記について
「万葉集」翻訳は1首ではあるものの、仏語だったと、ドナルド・キーンが語ったといわれているが、大部であるから"初"をどう定義するかは難しいものがある。
しかし、「古事記」は、単に筋を訳出するだけなら、その気になりさえすれば全訳はそう難しくなかろう。

初翻訳は英語で、訳者はBasil Hall Chamberlain(チェンバレン)[1850-1935年]。帝国大学の博言学教師で、琉球語と日本語の同系説を提起したことで知られる。
一般にどう評価されているのかは浅学のためわからないが、冒頭の解題的著述は優れていると思う。・・・
チャンバーレン[飯田永夫 譯訳]:「日本上古史評論(英譯古事記 総論之部)」史学協会出版局, 1888年@NDL所収
@B.H.Chamberlain: "A translation of Kojiki or Records of ancient matters."1882年(タトル版1906年, Full text@sacred-texts.com)

というか、普通に考える翻訳書(Donald L. Philippi:1968 Univ. Tokyo Press, Gustav Heldt:Columbia Univ. Press 2014)とはかなり性格が違うからだが。

フォントに慣れていないので、間違ったりはするし、読み易くないので往生するが、一部引用するとこんな具合。・・・
  日本の書籍と云フ者出テ來てより以來
  殆ト千二百年の間數多の書 世よ出テたれと
  最モ大切なる者は古事記よりある
  ・・・第一等の古書なり
  ・・・故ハ 古代の日本の~道風俗言語
   及 傳說を載せたる事
  他書よりも誠實なれバなり
  實に此ノ書は
    Turanian, Scythian & Altaic 等の
  種々の名稱を以て稱せらたる
  一大人種の最モ舊き典籍よして
    non-Aryan Indiaの
  最キ舊き文書の現存せる者に比するに
  尚 百年も古き者なり
  ・・・日本事情を考究する者
  今の日本風俗及思想は元ただ全く徒なり
  鄰國より移り來りし者なれは
  此レを實に日本固有の者と誤解する事なく
  日本純粋の事實を考究せんと欲せは
  宜く先 古事記を第一とし
  其ノ他萬万葉集祝詞等の二三の書を見るべきなり


言語学者だからこそ、「古事記」の特殊性に、気付いたのではあるまいか。non-Aryanに限らず、類書は皆無であることに。

その結果、「古事記」に対する姿勢をはっきり打ち出している。と云うか、それはインテリなら当たり前でもあるのだが、日本の場合はそれこそが新鮮に映ることになる。
要するに、正統性を示すための歴史書と混ぜこぜにすべきではないし、聖典とか文芸書として読まないということ。
これこそ、太安万侶精神そのものといえるのでは。

従って、要点はこのように整理されている。・・・
  1. 古事記の信すべき事及其性質又異本評説
  2. 翻訳の方法の事
  3. 日本紀の事
  4. 日本古代の風俗習慣の事
  5. 日本古代の宗教及政治の思想日本国の起源
    及 日本古伝説の信すべき等の事

これを見てわかるように、チェンバレンはかなり読み込んでいる。
色彩記述に黄色がないことまで指摘している。

しかし、"赤-黒&青-白"と自然物の色が倭の色彩であることを全く理解しておらず、斑も誤解があるようで、思っている以上に浅薄であることに注意を要する。日本語とは"Orange赤し"や"Leaf青し"が通用する世界であることがわかっていない。
このレベルだと、倭に於ける神の概念を理解できようがなかろう。現代と同じで、多神教/Deity v.s. 一神教/Godの違いという単純なドグマ以上の読みはできないかも。

どうあれ、太安万侶が古代の歌謡を書き留めようと知恵を振り絞っていることには強く印象付けられたに違いない。そうだとすると、この感覚だと、愕然とんあってもおかしくない。
数多くの歌が収録されているものの、宗教的に神に接している姿が全く描かれていないからである。全般的に見て、神に対する恐れを欠いている社会に映ったと思われる。
キリスト教文化に使っている限り、所詮、こうした分析思考から抜け出せないから、倭の宗教観を見抜くことはできないというだけのことではあるものの。

と云うことで、形而上の議論を避ける体質と、天皇尊崇ありきの社会であることが、いかにも不可思議に映ったに違いない。
その一方で、新しいものに対する好奇心が旺盛で、とりあえず試し、Goと決断すると真剣に取り組み始める姿勢が顕著なことに大いに驚いているといったところだろう。
西欧インテリのこの辺りの認識は今もって同じようなものかもしれない。
それは現代日本人にも通用したりして。

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