→INDEX

■■■ 「古事記」解釈 [2022.4.12] ■■■
[466]志斯は並立の仮名文字
仮名<シ し>は、≪之≫の変形とされるが、太安万侶の考え方からすれば、この様な方針は受け入れがたいのでは。
だからと言って、目くじらをたてるようなお方ではなく、笑って済ませるだけだろう。それこそ、"しし"の仮名は"十六"と親爺ギャグを言いかねまい。古代から、この手のセンスは知識人階層たる証でもあろう。
それにしても、≪之≫には重要な役割があるのに、それを<シ し>に当てるとはとガッカリしたと思う。

世の流れは、書くのもお気軽ということで、日本語は"の"だらけになってしまい、≪之≫は本来の使命とは異なる音素文字にされてしまったのである。
太安万侶が志向した≪シ し≫の仮名文字はどう見ても≪之≫ではなかったのである。

地名等では、すでに文字が当てられている場合があり、その文字読みが適切であろうがなかろうが、手をつけずママにしたと、方針が書かれている。<し>の場合は、こんなところ。・・・
  筑[]国 []羅国 []長大陵 葦原[]許男神

ここに師も入れたいところだが、(時置師神 萬幡豐秋津師比賣命)(壹師君 味師内宿禰 倭之市師池)
よくわからない。
地名の師木[しき]については、初代天皇以前から存在した地名だろうからママと考えるべきだと思うが、後世の変更の可能性もありそう。(兄師木 弟師木 師木縣主 師木津日子玉手見命 師木水垣宮 師木玉垣宮 師木"登美"豐朝倉曙立王 百師木伊呂辨 師木嶋大宮)
と云うのは、"師"は序文の漢文でも使っていて、現代同様な意味があり、その意味で使われていそうに見えるからだ。(土師部 難波吉師部 阿知吉師 和邇吉師)

序文の漢文でもお目にかかる≪斯[其(=箕)+斤]が100%仮名文字<し>として用いられているようだ。ところが、夜須美斯志[やすみしし]という言葉ではっきりしているが、斯々ではなく、≪志[心+士(=之)]を起用して、わざわざ斯志としている。<し>の音が2種類あるという話も耳にしないから、何か理由があるのだろう。純粋音素文字表記ではなく、ほとんど漢文訓読要求文である、以下の箇所に相当すると見られており、同じ意味での<し>の連続音ではないことを示したかったということかも。
  八隅知之[やすみしし] 吾大王之 朝庭・・・[「万葉集」巻一#3]
  八隅知之[やすみしし] 吾大王之 所聞食・・・[「万葉集」巻一#36]
しかし、それに、たいした意味がある筈がない。<し々>の繰り返しを楽しんでいるだけなのは、歴然としているのだから。猪/ししについてもこの2文字で音素文字表記。本来的には、同文字でもかまわないのだろうが。
  阿蘇婆[遊ば]志斯[しし] 志斯[]夜美[病み]斯志[]・・・
(正確には、シシの漢訳文字は宍。猪はイの宍、鹿がカの宍である。ここでは猪が登場している。)

そうそう、読み(し/す/せ)が該当してしまう文字もある。為や所だ。とはいえ、基本はその意味での訓読み。おそらく、「古事記」内では、これらが音素文字として用いられることはなかろう。しかし、読者層は、文法そのものに興味を持っている訳ではないので、仮名として使ってしまう可能性は少なくないと思われる。

---斯の用例---
<訓斯>@於青柴垣打成而隱也
【神名等】"宇麻志阿斯訶備比古遲"神 "和豆良比能宇斯能"神 飽咋之"宇斯能"神 科"伊斯許理度賣"命 遠津山岬多良斯神 伊斯許理度賣命 兄"宇迦斯" 弟"宇迦斯" 丹波比古多多須美知能宇斯王 美知能宇斯王 旦波比古多多須美知宇斯王 大帶日子"淤斯呂和氣"命 美知能宇斯王 日向之美波迦斯毘賣 岐多斯比賣
[地文]以其追"斯伎斯"   地矣"阿多良斯登許曾"   我御心須賀須賀斯 而   宮柱"布刀斯理" 冰椽"多迦斯理"   自我手俣"久岐斯"子也   宮柱"布刀斯理" 氷木"多迦斯理"   於是副賜其"遠岐斯"   拜祭”佐久久斯侶伊須受能"宮   "宇岐士摩理 蘇理多多斯弖"   宮柱布斗斯理 氷椽多迦斯理   伊須久波斯   今吾足不得歩 成當"藝斯玖___"
【歌】夜斯麻久爾・・・登富登富斯・・・登富登富斯・・・岐藝斯波登與牟・・・伊斯多布夜  【歌】伊斯多布夜・・・斯路岐多陀牟岐・・・多麻傳佐斯麻岐  【歌】久路岐美祁斯遠・・・阿遠岐美祁斯遠・・・麻岐斯・・・曾米紀賀斯流邇 斯米許呂母遠・・・許斯與呂志・・・宇那加夫斯・・・  【歌】阿賀淤富久邇奴斯・・・斯麻能佐岐耶岐・・・賣邇斯阿禮婆・・・都麻波那斯・・・布波夜賀斯多爾 牟斯夫須麻 爾古夜賀斯多爾・・・佐夜具賀斯多爾・・・斯路岐多陀牟岐・・・多麻傳佐斯麻岐・・・伊遠斯那世  【歌】斯良多麻能 岐美何余曾比斯  【歌】加毛度久斯麻邇 和賀韋泥斯  【歌】美都美都斯・・・伊斯都都伊母知 宇知弖斯夜麻牟・・・美都美都斯・・・伊斯都都伊母知。伊麻宇多婆余良斯  【歌】美都美都斯  【歌】美都美都斯・・・宇知弖斯夜麻牟  【歌】延袁斯麻加牟  【歌】知杼理麻斯登登  【歌】阿斯波良能・・・伊夜佐夜斯岐弖 和賀布多理泥斯  【歌】奴須美斯勢牟登・・・斯理都斗用・・・斯良爾登  【歌】佐泥佐斯・・・斗比斯岐美波母  【歌】夜須美斯志・・・登斯賀岐布禮婆  【歌】多知波氣麻斯袁 岐奴岐勢麻斯袁  【歌】夜麻登志宇流波斯  【歌】波斯祁夜斯  【歌】和賀淤岐斯  【歌】許斯那豆牟・・・阿斯用由久那  【歌】許斯那豆牟  【歌】本岐玖琉本斯・・・本岐母登本斯 麻都理許斯美岐敍  【歌】阿夜邇宇多陀怒斯佐佐  【歌】阿波志斯袁登賣 宇斯呂傳波・・・比斯那須・・・阿波志斯袁美那・・・和賀美斯古良・・・和賀美斯古良  【歌】迦具波斯・・・登理韋賀良斯・・・比登登理賀良斯・・・余良斯那  【歌】「比斯」賀 「良能」佐斯祁流斯良邇・・・波閇祁久斯良邇 (伊夜袁許邇斯弖 伊麻叙久夜斯岐)  【歌】美知能斯理  【歌】岐許延斯迦杼母  【歌】美知能斯理・・・泥斯久袁斯叙母  【歌】迦美斯意富美岐  【歌】迦美斯美岐邇  <答曰>波夜祁牟比登斯  【歌】等母邇斯都米婆 多怒斯久母阿流迦  【歌】爾斯布岐阿宜弖  【歌】佐斯夫袁 佐斯夫能紀 斯賀斯多邇・・・斯賀波那能 弖理伊麻斯  【歌】和賀美賀本斯久邇波  【歌】夜麻斯呂邇 伊斯祁登理夜麻 伊斯祁伊斯祁 阿賀波斯豆麻邇 伊斯岐阿波牟加母  【歌】宇知斯淤富泥・・・斯漏多陀牟岐・・・斯良受登母伊波米  【歌】夜麻斯呂賣能  【歌】宇知斯意富泥  【歌】意富岐彌斯 與斯登岐許佐婆  【歌】波斯多弖能 久良波斯夜麻袁  【歌】波斯多弖能 久良波斯夜麻波 佐賀斯祁杼・・・佐賀斯玖母阿良受  【歌】都毘邇斯良牟登 加理波古牟良斯  【歌】斯賀阿麻理  【歌】泥牟登斯理勢婆 泥牟登斯理勢婆  【歌】斯多備袁和志勢・・・斯多那岐爾  【歌】宇流波斯登 佐泥斯佐泥弖婆・・・佐泥斯佐泥弖婆  【歌】比登斯理奴倍志・・・斯多那岐爾那久  【歌】斯麻爾波夫良婆  【歌】阿斯布麻須那 阿加斯弖杼富禮  【歌】意富袁爾斯  【歌】斯毛都勢爾・・・久爾袁母斯怒波米  【歌】波毘呂久麻加斯・・・多斯美陀氣淤斐・・・多斯美陀氣 多斯爾波韋泥受  【歌】伊都加斯賀母登 賀斯賀母登 由由斯伎加母  【歌】韋泥弖麻斯母能  【歌】都岐阿麻斯  【歌】美延斯怒能・・・志斯布須登・・・夜須美斯志・・・斯志麻都登・・・斯漏多閇能  【歌】夜須美斯志・・・阿蘇婆志斯 志斯能夜美斯志能 宇多岐加斯古美 和賀爾宜能煩理斯  【歌】斯毛都延爾・・・斯豆延能・・・許斯母  【歌】佐加美豆久良斯  【歌】斯多賀多久  【歌】夜須美斯志・・・和岐豆岐賀斯多能  【歌】夜幣能斯婆加岐  【歌】斯本勢能  【歌】斯麻理母登本斯  【歌】斯毘都久阿麻余 斯賀阿禮婆 宇良胡本斯祁牟  【歌】於岐米久良斯母

---志の用例---
<訓多多志><訓志><訓云志殿
【神名等】宇麻志阿斯訶備比古遲神 阿訶志古泥神 志那都比古神 "志藝"山津見神 "宇都志"日金拆命 "宇都志"國玉神 "比那良志毘賣" "多比理岐志麻流美"神 阿遲志貴高日子根神 天"邇岐志國邇岐志 多藝志美美命 當藝志美美命 御眞津日子訶惠志泥命 多藝志比古命 比古伊那許志別命 志夫美宿禰王 美知能宇志王 "伊登志"別王" 伊登志和氣王 志理都紀斗賣 登富志郎女 伊豆志之八前大神 伊豆志袁登賣神 岐多志比賣命 意富藝多志比賣 須加志呂古郎女
志毘臣 志比陀君
宇都志岐青人草   伊豆志河之河嶋節竹   志自牟(之家/之新室樂) 針間志自牟家

【地名】河内國之志幾 志幾之大縣主   近淡海之志賀高穴穂宮 筑紫訶志比宮
高志道 高志國 高志前之角鹿 高志之八俣"遠呂智" 高志國之沼河比賣 高志之利波臣 高志池君
出雲國之"多藝志"之小濱  无邪志國造

[地文]即遣豫母都志許賣   於葦原中國所有"宇都志伎"   吾者到於"伊那志許米志許米岐"   取由良迦志 而   蹈"登杼呂許志"   如先期"美刀阿多波志都"   於天浮橋"多多志"   汝之"宇志波祁流"   不平坐"良志"   以爲遂志   然顯白己志以   然汝守志待命   有"宇都志意美"者   是今單取父仇之志
  先言:「阿那邇夜志愛袁登古袁」後伊邪那岐命言:「阿那邇夜志愛袁登賣袁」・・・先言:「阿那邇夜志愛袁登賣袁」後妹伊邪那美命言:「阿那邇夜志愛袁登古袁」  【歌】故志能久邇邇 佐加志賣遠 阿理登岐加志弖 久波志賣遠 阿理登伎許志弖  【歌】賣邇志阿禮・・・那志勢多麻比曾・・・那古斐支許志  【歌】許斯與呂志  【歌】遠波那志  【歌】阿治志貴多迦  【歌】志藝和那波留・・・志藝波佐夜良受・・・許紀志斐惠・・・"疊疊"志夜胡志夜・・・"阿阿"志夜胡志夜  【歌】宇知弖志夜麻牟  【歌】宇惠志波士加美  【歌】意斐志爾・・・志多陀美能・・・知弖志夜麻牟  【歌】志麻都登理  【歌】多禮袁志摩加牟  【歌】志祁志岐袁夜邇  【歌】佐味那志爾阿波禮  【歌】夜須美斯志  【歌】夜麻登志宇流波斯  【歌】久麻加志賀波袁  【歌】久志能加美  【歌】伊知遲志麻 美志麻邇斗岐・・・志那陀由布・・・阿波志斯袁登賣・・・波那美波志・・・志波邇波・・・阿波志斯袁美那  【歌】志豆延波  【歌】和賀許許呂志  【歌】宇流波志美意母布  【歌】加良賀志多紀能  【歌】加志能布邇・・・岐許志母知袁勢  【歌】許登那具志 惠具志爾  【歌】加那志祁久  【歌】淤志弖流夜・・・阿波志摩 淤能碁呂志摩・・・志麻母美由 佐氣都志摩美由  【歌】志多用波閇都都  【歌】夜麻志呂賀波袁  【歌】夜麻志呂賀波袁・・・阿袁邇余志  【歌】夜麻志呂賣能  【歌】夜麻志呂能・・・那美多具麻志母  <志都歌之歌返也>  【歌】阿多良須賀志賣  【歌】佐賀志美登  【歌】宇倍志許曾  【歌】志本爾夜岐  <志都歌之歌返也>  【歌】母知弖許麻志母能  【歌】阿志比紀能・・・斯多備袁和志勢 志多杼比爾  <志良宜歌也>  【歌】多志陀志爾  【歌】比登斯理奴倍志  【歌】志多多爾母  【歌】志多多爾母  【歌】加志波良袁登賣  【歌】登母志岐呂加母  <志都歌也>  【歌】志斯布須登・・・夜須美斯志・・・斯志麻都登 阿具良爾伊麻志・・・阿岐豆志麻登布  【歌】夜須美斯志・・・阿蘇婆志斯 志斯能夜美斯志能  【歌】有"宇都志意美"者  【歌】比志呂乃美夜波・・・夜本爾余志・・・志豆延波・・・宇岐志阿夫良・・・阿夜爾加志古志  【歌】比呂理伊麻志  【歌】毛毛志記能・・・麻那婆志良  【歌】夜須美斯志  <此者志都歌也>  【歌】志毘賀波多傳爾  【歌】美古能志婆加岐・・・志婆加岐 夜氣牟志婆加岐  【歌】意布袁余志・・・志毘都久志毘  其子孫上於倭之日:「必自跛也 故能見"志米岐"」
【万葉集】八隅知之/安見知之[やすみしし]
  八隅知之 吾大王之 朝庭・・・[「万葉集」巻一#3]
  八隅知之 吾大王之 所聞食・・・[「万葉集」巻一#36]
  安見知之 吾大王 神長柄・・・[「万葉集」巻一#38]
  八隅知之 吾大王之 高照・・・[「万葉集」巻一#45]
  八隅知之 吾大王之 高照・・・[「万葉集」巻一#50]
  八隅知之 和期大王 高照・・・[「万葉集」巻一#52]
  八隅知之 吾期大王乃 大御船・・・[「万葉集」巻二#152]
  八隅知之 和期大王之 恐也・・・[「万葉集」巻二#155]
  八隅知之 我大王之 暮去者・・・[「万葉集」巻二#159]
  八隅知之 吾大王 高照・・・[「万葉集」巻二#162]
  八隅知之 吾大王乃 所聞見為
  八隅知之 吾大王之 天下・・・
[「万葉集」巻二#199]
  安見知之 吾王 高光・・・[「万葉集」巻二#204]
  八隅知之 吾大王 高光・・・[「万葉集」巻二#239]
  八隅知之 吾大王 高輝・・・[「万葉集」巻三#261]
  安見知之 和期大王之 常宮等・・・[「万葉集」巻六#917]
  安見知之 吾王乃 敷座在・・・[「万葉集」巻三#929]
  八隅知之 和期大王乃 高知為・・・[「万葉集」巻六#923]
  安見知之 和期大王波 見吉野乃・・・[「万葉集」巻六#926]
  八隅知之 吾大王乃 神随・・・[「万葉集」巻六#938]
  八隅知之 吾大王乃 御食國者・・・[「万葉集」巻六#956]
  八隅知之 我大王之 見給・・・[「万葉集」巻六#1005]
  八隅知之 我大王之 高敷為・・・[「万葉集」巻六#1047]
  安見知之 吾大王乃 在通・・・[「万葉集」巻六#1062]
  八隅知之 和期大皇 高照・・・[「万葉集」巻十三#3234]
  八隅知之 吾大皇 秋花・・・[「万葉集」巻十三#4254]
  安美知之 吾大皇乃 神奈我良・・・[「万葉集」巻十三#4266]

 (C) 2022 RandDManagement.com  →HOME