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■■■ 「古事記」解釈 [2022.4.28] ■■■
[482]杼・縢・騰を何故ドと読むのか
<ど・ども>は古文文法では接続助詞である。(清音<と・とも>も接続助詞で。)その現代訳は、2つ。
  〜けれども
  〜であっても
この助詞は今でも使われているが、「古事記」の頃から普通に使われていた古い言葉のようだ。
   杼母ども

ところが、何故に、この文字を使うのかは定かでは無い。
≪杼[木+予]
 【語源】織布機に使う簆(梭子)
  [呉音]ジョ  ジョ(ヂョ)
  [漢音]ショ チョ
  [訓]ひ どんぐり
"ど"の音素文字としても使えるということで選ばれたようではあるが、訓は"ひ"だし。・・・
古杼母こども 伊杼美いどみ 蹈"登杼呂許志とどろこし"
山田之曽富騰そほど 意富富杼おほほど王 春日之袁杼をど比売 須売伊呂杼すめいろど 蠅伊呂杼はえいろど 泥杼ねど王 袁本杼おほど
売杼理(女鳥) 杼理(鳥)
杼比(問ひ)(娉ひ) 那杼(何ど)

ただ、"ど"音には異なる難しい文字も用いられている。・・・
"淤縢おど"山津見神

≪縢[月+絭[糸+龹]
 【語源】繩索/纏束
  [呉音]ドウ(ドゥ)
  [漢音]トウ(トゥ)
  [訓]かが-る かな から-げる むかばき
もともとは、この文字を音素文字にしたかったのだろうが、余りに画数が多く助詞のような多用される詞にはとても使えたものではないということで、を用いたのかも。
"ど"音は、団栗の頭の音でしかないが、この2文字は栗に比した新しい表記で、もともとの翻訳文字は皁・p・梍・杼の4種。糸に関係するということで、杼を用いることにしたとしか思えない。ただ、使っても、団栗やと混同することはなさそうだから、選ばれたと考えざるを得ない。

ただ、縢と文字構造が似ている文字も使われている。音が"ドゥ"なので、例外的に、"ど"と読まれることもあるのだろう。
≪騰[月+駦[馬+龹]]
 【語源】馬朕聲⇒奔馳
  [呉音]ドウ(ドゥ)
  [漢音]トウ(トゥ)
  [訓]あ-げる あ-がる

しかし、この文字は、訓の翻訳文字でもあるから、「古事記」では、一音音素文字としない方針だったのでは。
実際、翻訳の訓読は一定していない。だからといって、それほど神経質になる必要はなさそうに思う。歌謡でも、その場に合わせて同じ意味でよさそうな言葉を詠っていた可能性が高いからだ。・・・
如葦牙因萌騰もえあがる之物 而 成神名 宇麻志阿斯訶備比古遲神
追往黃泉國 爾 自殿騰戶あげど
茲大神初作須賀宮之時 自其地雲立騰たちのぼり
於今者山田之曽富騰そほど者也 ☚ど
"佐和佐和邇"控依騰ひきよせあげ
足一騰あしひとつあがり
のぼり(し)其山之時 白猪逢于山邊 其大如牛
還時將殺 而 のぼり坐 於是零大氷雨 打惑倭建命
故其御船之波瀾 押騰おしあげて新羅之國
爾 香坂王 のぼり坐歴木 而是 大怒猪出
共逃退 而 のぼり于倉椅山
坂騰さかのぼり

ちなみに、「万葉集」では、杼ほど多用されてはいないものの、結構使われている。縢は使うことは無いが、「古事記」同様に騰はもともと使わざるを得ない文字なので、"ど"として使うこともあるということでは。
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