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■■■ 「古事記」解釈 [2022.5.11] ■■■
[495]<阿伊宇愛意>提起は太安万侶では
5母音小生が、しつこく「五十音図」に拘っているのは、現代音韻学に基づいて設定されたイメージが広がっているように思われるから。

そうなっている大きな理由は「いろは歌」にあることは自明。
母音子音の区別なく、全音素を丸暗記するのが和流の言語習得方法であることを骨の髄まで沁み尽くさせる効果は絶大。結果、aiueoはいかにも西欧流の合理的音韻学が導入されて整理されたように映ってしまう。それは、英語が必修科目となり、辞書を開けば嫌がおうにも、和語とは無縁な、国際的フォネティックコードを読まざるを得ない羽目に陥るせいでもある。

しかし、日本の「五十音図」は、残存してはいないものの、平城京のインテリ層からすれば当たり前のような学びの対象だった可能性が高い。中華帝国でのフォネティックは、王朝毎に大きく変化しており、地域の差異も大きく、漢語とは目で読むだけの書類記述言語でしかなく、話し言葉ありきの社会での倭語とはほとんど水と油状態。・・・口述言語中心の社会では、漢籍音読が必要となれば、フォネティックコードなくしては対応しきれるものではなかろう。そうなれば、手法としては「五十音図」しかありえまい。遣隋使派遣の頃にはすでにおおまかには出来上がっていたと見てもおかしくはなかろう。但し、その根本思想は悉曇学なので、有能な学僧以外は、そうそう簡単に論理立てた解釈は難しかったと思われる。従って、いい加減な形での対応だった可能性もあろう。おそらく、公式には、東大寺大仏開眼天竺僧による貝葉経典渡来から本格化したのだろう。

「古事記」の音素表記文字を眺めていると、そうとしか思えないのである。
  -母音-・・・8種
(阝:阿の偏)(安) [萬]
(亻:伊の偏)(以) [萬]
(井の変形)(為) [萬]
(宀:宇の冠)(〃) [萬]
(工:江の旁)(衣) [萬]n.a. @呉音
(恵の部分画)(〃) [萬]惠/恵 @呉音
(方:於の偏)(〃) [萬]
(乎の初画変形)(遠) [萬] @呉音
再掲しておくが、渡来学はこんな風。
  【悉曇 摩多】
[ア]…本不生
[アー]…寂静
[イ]…根本
[イー]…宍[災]禍
[ウ/オウ]…譬喩
[ウー/オウ]…損減
[エイ or エ]…求
[エイ/アイ or エー]愛/藹…自在
[オウ or オ]…瀑流
[オウ/アウ or オー]奥/奧…変化
अं[アン]暗/闇…辺際
अः[アク or ア]悪/痾…遠離

太安万侶はこれをもとに、<母音>音素文字を設定していると思われる。換言すれば、本朝初のアイウエオである。何らの意味もなき言葉の羅列であり、極めて思弁的で哲学臭を感じさせる用語だから、五十音図として掲示はしないが、そのような考え方をしないと、倭語の漢字表記は滅茶苦茶になりますゾ、との主張がありそう。・・・

≪あ≫ ≪い≫
阿 伊【悉曇 摩多】対応標準音素文字
すでに述べたが、安・以を選ぶ根拠無しというのが、太安万侶流。

≪う≫
[ウ/オウ]…譬喩
  n.a. [訓]とりで  むら
比地迩神 etc. …標準音素文字

塩@稲羽素菟
寸河
田首

於天之石屋戶伏うけ
おそらく、宇以外に候補が無いのである。

≪え≫
[エイ or エ]…求
  n.a. [訓]くもる
[エイ orエー]愛/藹…自在
袁登古袁 袁登賣袁…用例は限定的だが標準音素文字と見た。
作此国 etc. …用例は多いが訓でもある。
御祖
やみ多起
名津比売
現代人だとLoveを想起させられる文字だが、儒教も仏教も、そのような観念とは縁遠い。得が不適なら、愛しかなかろう。

≪お≫
[オウ or オ]…瀑流
[ウー/オウ]…損減
  因汚垢而所成神之者也@御身之禊
  以爲穢汚而奉進@大氣津比賣神
[オウ/アウ or オー]奥/奧…変化
山津見神 奧[於伎]疎神 奧津"那藝佐毘古"神 奧津"甲斐辨羅"神 奧津嶋比賣命 胸形之奧津宮神 奧津日子神・奧津比賣命 道奧石城國造 奧津余曾 奧津鏡
  …"みちのおく⇒みちのく"からして<く>に重点がある言葉だろう。
  自此於奧方莫使入幸
能碁呂嶋者 etc. …標準音素文字
  …もっぱら意富おほと読むことになっている。音素"イ"文字という訳ではなさそう。([地文]意况易解)
美豆奴神 etc.
陀流神

坂日子人太子
文法上の重要な役割を担う於を音素文字として選ぶことはありえない。それでも、使いたいなら淤にせよとの主張。意能碁呂嶋者で意を用いる特段の理由がないなら、この文字はすでに音素として広く認められていたと云えそう。太安万侶は、汚は好まれないし、意でよかろうとの判断か。

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