「古事記」解釈[497](20220513)

■■■　「古事記」解釈 [2022.5.13]　■■■

[497]「古事記」是とは

＜是＞とはもともとは指示代名詞。それは仏教用語の「色即是空」でだいたいは想像がつくが、現代社会ではその意味で使われることはほとんどない。
「是々非々」「国是」「是認」という用語が多用されるため、"道理的に"正しいという意味の文字として受け取られているからだ。

もっとも、"此の様である"という指示代名詞/指示形容詞であることは、漢文で、以下の熟語とともに覚えさせられるから、実際は忘却の彼方にあるだけで、稀な用法ではない。
　　　如是かくのごとし　　若是かくのごとくんば

小生の感覚だと、いかにも、中華帝国らしき指示代名詞となるが。・・・
いかにも騒がしい食事での場面を彷彿させるからだ。
(黙々風習は禅宗の律に儒教倫理を被せたもの。儒教国家の文化ではない。儒教型国家では、たとえ家族や親密な有人であっても、小声は陰謀を意味しかねず、会話では大声を出す方が礼儀にかなう。そんな中での食事だが、最大の眼目は独裁的地位を見せつけるための上意下達行動。権力者の意向は１００％正しいと総員が表明する集会だからだ。それは宗族第一主義の宗教観に根差しており、匙で行われる指示や解説を聞いて大いに誉めそやすことが嬉しいのである。このシーンで核となる漢字が是。天子独裁-官僚統治構造は政治だけでなく、食を通じて、個人の精神領域にまでズカズカと入り込んでくるのである。)

≪是[日+𤴓]≫ ≒匙
　　[呉音]ゼ
　　[漢音]シ
　　[訓]これ　この　ここ

太安万侶はおそらく中華帝国の体質は百も承知。
従って、音素文字＜ゼ＞としての用例は歌のみで限定的。・・・
　　加牟加是能神風(かむかぜ)の
　　加是布加牟登須風吹かむとす
　　加是布加牟登曾風吹かむとす
　　和多理是邇渡り瀬(ぜ)に
　　　但し、＜訓風云加邪＞との加是ではない表記の割注がある。
これ以外は＜於是＞＜是以＞と単なる＜是＞。見ての通り、数多く使用されており、歌謡的な身振り付きでの話語らしい文章になっている。現代の話し言葉とは短文の交換なので、馴染みが薄いが、物語を語る場合はこのような繋ぎ詞は聴衆の関心を高めるための重要な箇所の筈だ。・・・

【上巻】　於是天神諸命以修理固成是多陀用幣流之國是淤能碁呂嶋於是問其妹伊邪那美命曰詔然者吾與汝行廻逢是天之御柱而爲美斗能麻具波比次生淡嶋是亦不入子之例於是二柱神議云於是伊邪那岐命是伊邪那美神未神避以前所生於是伊邪那岐命於是欲相見其妹伊邪那美命於是伊邪那岐命見畏而是摭食之間是拔食之間是以一日必千人死是以伊邪那伎大神詔於是詔之上瀨者瀨速於是洗左御目時是以惡神之音故於是速須佐之男命言於是速須佐之男命於是天照大御神是後所生五柱男子者故於是天照大御神見畏於是萬神之聲者是以八百萬神於是天照大御神以爲怪於是八百萬神共議而故是神產巢日御祖命於是須佐之男命是高志之八俣遠呂智是汝之女者於是飮醉是者草那芸之大刀也是以其速須佐之男命於是喚其足名椎神於是到氣多之前時於是知與吾族孰多於是大穴牟遲神於是八上比賣於是八十神見於是其妻須勢理毘賣命於是不知所出之間於是其妻須世理毘賣者於是其妻是奴也於是大國主神愁而是時於是天忍穗耳命是使何神而是可遣是以高御產巢日神於是天若日子於是諸神及思金神是高木神者於是高木神曰雉之頓使是也於是在天故是以過也於是阿遲志貴高日子根神於是天照大御神詔之是可遣是以此二神是可白然於是亦白之是我所燧火者是以隨白之於是有於是副賜其遠岐斯八尺勾璁鏡於是詔之是以猿女君等女呼猿女君之事是也於是送猿田毘古神而是以御世於是天津日高日子番能邇邇藝能命故是以至于今是天神之御子是非我子於是其兄火照命於是其弟是乞其鉤故雖償多鉤不受於是其璵著器是不得離故於是火遠理命是以海神必是取於是探赤海鯽魚之喉者是以備如海神之教言於是海神之女於是其產殿於是思奇其言是甚怍是以名其所產之御子是天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命
【中巻】　於是與登美毘古戰之時可降是刀故以是横刀而獻耳於是亦於是兄宇迦斯於是宛八十建 ≪加牟加是能≫ 是謂神御子是者故是以謂神御子也於是七媛女於是其伊須氣余理比賣命之家 ≪加是布加牟登須≫ ≪加是布加牟登曾≫ 於是其御子聞知而是以汝命爲上是者我之御心是以驛使班于四方於是天皇大歡以於是有神壯夫是以其父母於是大毘古命於是到山代之和訶羅河時於是國夫玖命彈矢者是以各和平所遣之國政而覆奏於是初令貢男弓端之調又是之御世是奉納石上神宮有是何表也是不勝面問故妾答曰愛兄歟是以欲刺必有是表焉於是天皇是以選聚軍士之中是以取獲其御子何稱是子之御名然是御子八拳鬚至于心前故是人追尋其鵠於是天皇患賜而住是鷺巣池之樹鷺乎唯木戸是腋月之吉戸ト而是於河下於是覆奏言於是天皇於是圓野比賣慚言是甚慚而是今橘者也於是天皇/於是天皇/於是天皇是不伏无禮人等於是言動爲御室樂於是白言是以是事白訖於是倭建命住是沼中之神於是看行其神於是先以其御刀苅撥草於是其暴浪自伏是以譽其老人於是獻大御食之時於是詔是化白猪者於是零大氷雨於是坐倭后等於是化八尋白智鳥是四歌者凡是倭建命之御子等是大后是以知坐腹中定國也於是大后歸神於是建内宿禰大臣白於是教覺之状是天照大神之御心者於是其國王畏惶奏言故是以新羅國者於是息長帶日賣命騰坐歴木而是於是其將軍既信詐於是其忍熊王與伊佐比宿禰於是御子於是還上坐時於是天皇天皇所以發是問者是無悒是愛於是父答曰是者天皇坐那理於是天皇是自日向喚上之髮長比賣者是以建内宿禰命付人是即貢進故是須須許理於是天皇宇羅宜是所獻之大御酒而於是大山守命者於是其兄王是以白不能也於是伏隱河邊之兵 ≪和多理是邇≫ 是大山守命者於是大雀命是人參渡來也於是日耀如虹指其陰上故是女人汝必殺食是牛於是天之日矛雖欲得是伊豆志袁登賣於是有二神於是其春山之霞壯夫於是其兄是以其兄於是其身如本以安平也
【下巻】　於是天皇是以大殿破壞是以百姓之榮聞是之御歌於是天皇於是爲煮大御羹於是大后是退己國於是大后大恨怒故是口子臣/故是口子臣故是口日賣歌曰是以速總別王於是女鳥王於是速總別王歌曰於是大后石之日賣命是者無異事耳於是建内宿禰故切是樹以作船故以是船於是倭漢直之祖於是其伊呂弟水齒別命於是曾婆訶理是不義是以詔曾婆訶理於是王子先飮於是以阿知直於是天皇是以百官及是謂穴穂箭也於是穴穂御子是今造木者也是恐於是所遊其殿下目弱王是年七歲是王於是所遊其殿下目弱王於是大長谷王/ 於是大長谷王是以思於是市邊王之王子等是物者於是若日下部王是以還上坐於宮之時於是赤猪子以爲於是天皇大驚曰吾既忘先事是甚愛悲故婚是童女而於是作御歌於是天皇於是答曰於是惶畏而白故是一言主之大神者是豐樂之日於是問日繼所知之王也於是盛樂於是其姨飯豐王於是志毘臣歌曰於是王子亦歌曰於是二柱王子等是既汝命之功於是置目老媼是得求是以至今破壞是御陵是以意祁命是誠理也是今單取父仇之志既以是恥是亦大理是大后也

「萬葉集」は歌謡の地文を車掌した歌集であり、原則五七調だから、100％音素文字表示でよい筈だが、特別伝えたいことがあったり、二重三重の意味を示唆したい時、あるいは戯れることもあるので例外は多い。とはいえ、方針が異なるので、「古事記」の記載が上記のような状態だと、是の用法については、参考にならない気もするが、＜ゼ＞については見ておきたいので、眺めてみた。・・・
なにも「古事記」に倣って、風を音素表記する必要もなかろうに、原則表樹方法に拘れ向きもあるようだ。
≪風[虫+凡]≫
　　[呉音]フウ　フ
　　[漢音]ホウ
　　[訓]かぜ　かざ　え　い
[巻一#5] 山越風乃やまこすかぜの
[巻五#794] 蘭室　屏風びょうぶ　徒張
＜安是あぜ＞
[巻十四#3369] 安是加麻可左武[あぜかまかさむ] [巻十四#3434] 安是加多延世武[あぜか絶えせむ] [巻十四#3461] 安是登伊敝可[あぜと言へか] [巻十四#3469] 阿是曽母許与比[あぜぞも今夜] [巻十四#3479] 安是可曽乎伊波牟[あぜかそを言はむ] [巻十四#3513] 安是可多要牟等[あぜか絶えむと] [巻十四#3517] 阿是西呂等[あぜせろと] [巻十四#3576] 安是可加奈思家[あぜか愛しけ]
＜可是かぜ＞＝風
[巻五#799] 於伎蘇乃可是尓[おきその風に] [巻十四#3380] 可是乎伊多美[風をいたみ] [巻十四#3422] 伊可保可是[伊香保風] [巻十四#3453] 可是能等能[風の音の] [巻十四#3564] 宇良布久可是能[浦吹く風の] [巻十四#3572] 可是布可受可母[風吹かずかも] [巻十四#3616] 於伎都加是[沖つ風] [巻十五#3625] 布久可是能[吹く風の] [巻十五#3659] 安伎可是波[秋風は] [巻十五#3661] 可是能牟多[風の共] [巻十五#3666] 安伎可是左牟思[秋風寒し] [巻十五#3673] 可是布氣婆[風吹けば] [巻十七#4006] 安由能加是[東風の風] [巻十七#4017] ＜越俗語東風謂之安由乃可是也＞[あゆの風是也] [巻十七#4018] 美奈刀可是[港風] [巻二十#4353] 伊倍加是波[家風は] [巻二十#4371] 之多布久可是乃[下吹く風の] [巻二十#4452] 安伎可是不吉弖[秋風吹きて] [巻二十#4453] 安吉加是能[秋風の] [巻二十#4514] 加是奈美奈妣伎[風波靡き]
＜是ぜ＞
[巻二十#4363] 伊比之氣等婆是[言ひし言葉ぜ]
指示代名詞系からすれば、現代の漢文にもつながる＜如是＞の使用が目立つ。・・・
＜是こ(の)＞
[巻一#35] 此也是能[これやこの] [巻七#1306] 是山[この山の] [巻九#1741] 於曽也是君[おそやこの君] [巻十#1864] 是春雨尓[この春雨に] [巻十一#2381] 是二夜[この二夜] [巻十一#2389] 是夜莫明[この夜な明けそ] [巻十一#2427/2429/2430] 是川[宇治川の] [巻十一#2491] 従是此度[こゆかく渡る] [巻十一#2460] 是月面[この月の面に] [巻十二#2860] 是比歳[この年ころを] [巻十三#3299] 是方尓[この方に] [巻十三#3329] 是九月乎[この九月を]
＜於是ここ(に)＞
[巻十六#3791] 於是蚊寸垂[ここにかき垂れ] [巻十九#4253] 君尓於是相[君にここに逢ひ]
＜如是かく＞
　如是有乃かからむと　如是故尓かくゆゑに　如是耳かくのみに/かくのみし　如是戀乎毛かかるこひにも　如是戀常羽かくこひむとは　如是念二かかるおもひに　如是戀礼許曽かくこふれこそ　如是有者かくしあらば　如是許かくばかり　如是為而後二かくしてのちに　如是二二知三かくししらさむ　如是裳見壮鹿かくもみてしか　如是霜願跡かくしもがもと　如是為管かくしつつ　如是為乍かくしつつ　常如是耳加つねかくのみか　如是為而也かくしてや　如是開有者かくさきたらば　如是耳也かくのみや　如是鴨跡かくしもがもと　如是迷有者かくまとへれば　如是耳志かくのみし　如是成二手尓かくなるまでに　如是有者かくしあらば　如是戀者かくこひば　如是戀為良武かくこひすらむ　如是吹三更者かくふくよひは　■是耳かくのみし　如是有戀かかるこひをも　如是谷裳かくだにも　如是為乍かくしつつ　常如是耳志つねかくのみし　如是而将通かくて通はむ　常如是つねかくし　如是将戀かくこひむ　如是耳師かくのみし　如是将在登かくしもあらむと　如是霜欲得常かくしもがもと　如是かくのごと　如是耳尓かくのみに　如是許曽有物かくこそあるもの　如是能未奈良之かくのみならし　如是己曽/如是許曽かくしこそ