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■■■ 「古事記」解釈 [2022.5.17] ■■■
[501]衣の訓には、き(ぬ)・そ・けし、も
「古事記」の漢字の読みは難しいが、苦労して読めば読むほど味が出る。

S行の清音<し>を濁音化させる必然性は無いが、そのように読まれていることを取り上げておいたが、要するに、簡素な注しかないで読めばどうなっているのかよくわからないということ。

と云うことで、その辺りを実感させる例を取り上げておこう。比較的知られている読みの漢字である。・・・
≪衣≫[呉音] [漢音] [訓]ころも きぬ

ところが、これだけの訓では不備なのである。

伊勢神宮所管の神服織機殿神社・神麻続機殿神社@櫛田川下流右岸には機殿(八尋殿)があり、ここで、かむ祭のお(お)んを調進されているからだ。
御衣の読みは2つあるが、どちらなのかは確証に乏しいそうだ。音読なら、ギョイで決着だが。
ともあれ、訓は3種あるということになる。「古事記」で言えば、こうなる。
  天之冬きぬ
  三川之ころも君  洗ころも童女
  通郎女/衣通王<御名所 以負衣通王者 其身之光 自衣通出也>

一般的には<ころも>だが、特別な場合に<そ><きぬ>になると見てよさそうだ。

一体、このと云う読みは、どういう由来なのか、大いに気になるが、参考になりそうな情報はほとんど見つからない。その名の祭祀が存在すると言っても、ほとんど現代に近くなってからの再興のようで、文献的な裏付けがあるようには見えないし。

[地文]次於投棄御衣きぬ所成神名
令織神御衣みそ之時・・・天衣(=神御衣)織女見驚而

それぞれ、どう読むかは、いかにも好き好きといった風情の文章もある。・・・
亦腐玉試O重纒手 且以酒腐御衣 如全衣服・・・握其御衣者御衣便破

<ころも>ではどうか・・・
以"閇蘇"紡麻貫針 刺其衣襴   御衣易破  給其姨倭比賣命之御衣御裳・・・服其姨之御衣御裳・・・取熊曾之衣衿  服布衣褌・・・衣中服鎧・・・繋其衣中甲而  織縫 衣褌・・・令服其衣褌等・・・其衣服及弓矢  服著紅紐青摺衣  即衣中服甲

要するに、尊崇の対象であるとか、敬語表現が必要なら、自動的に詠み方が変わるというに過ぎない。その社会の成員からすれば、日常的感覚で即判断できるが、現代人には難しい。

ただ、漢語の熟語も用いられているので、これを同読むべきかは注意してかかるべきだろう。イフクと言っていた筈はないのだから。
 【衣服】
   _ブク@呉音 イフク@漢音 きもの@訓 or
   <ころも きぬ>
悉剥我衣服  内剥鵝皮剥爲衣服  且以酒腐御衣如 全衣服  避上下衣服  所服衣服以  悉給著紅紐之青摺衣服  脱百官人等所服之衣服

「萬葉集」でも訓が3種が使われており、さらに呉音の音素表記も用いられている。もちろん、用例の大部分は<ころも>。
<ころも>
[巻一#5]吾衣手尓[我が衣(ころも)手に]
<エ>
[巻二#95]安見兒衣多利[安見児得たり]
[巻十八#4078]>衣毛名豆氣多理[えも名付けたり]
<き>
[巻九#1787]吾衣有[我が着たる]
<そ>
[巻六#971]野之衣寸見世常[野のそき見よと]
[巻九#1689]在衣邊[あり衣辺(そへ)に]
[巻十一#2725]不云耳衣[言はなくのみぞ]
[巻十二#2885]枕毛衣世二[枕もそよに]

以上で済めば、フーンで終わるところだが、衣にはこの他の呼び方がある。歌なので、音素表示であり、すぐには衣とはわからない。上記の衣読みにも、適用されている箇所があっておかしくないが、言葉の違いを明確にし得ないので避けるしかない。
現代用語で言えば、"(お)召し"に当たる言葉だろう。なんとなく親しみが持てそうな言い回しだ。・・・
<けし>
[歌6]久路岐美祁斯遠[黒き御衣を]・・・阿遠岐美祁斯遠
[巻十四#3350]伎美我美家思志[君が御衣し]
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まとめるとこんな具合。・・・
きぬ…(おそらく、動詞"着"と名詞"絹"の類縁)日常的普段着と高級品の2種
 e.g. 狩衣かりぎぬ
 ⇒き e.g.寝(間)衣 ね ま き(ぬ) 被衣かずき(きぬ) 袿/内衣うちき(ぬ)
 ⇒ぎ e.g.上衣うわぎ(ぬ)
ころも…外出着
そ/ぞ…(必ず接頭語"御"付)
けし
 ⇒し e.g. 直衣のうし
…僧侶着用 e.g. 法衣 浄衣 単衣
…公的漢語風用語 e.g. 衣類 白衣 衣食 僧衣
…後世当て字類
  浴衣ゆかた 母衣ほろ 黒衣くろこ=黒子
  紙衣かみこ紙子紙かみこがみころも

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