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■■■ 「古事記」解釈 [2022.5.22] ■■■
[506][安万侶文法]若の用法
<若>の用法を眺めると、太安万侶は実践的な文法学者ではないかと思ってしまう。学校文法の丸暗記を嫌って来た体質のせいもあろうが。

≪若[艸/艹+右]
  [呉音]ニャク ニャ
  [漢音]ジャク ジャ
  [唐音]ジョ
  [訓]わか-い/わか も-しくは/も-し ごと-し
      し-く なんぢ もころ

以下を見ると、どう感じたか、お分かり頂けるのではないか。
[名称]
若雷 刺國若比賣 若昼女神 若山咋神 若年神 (妹)若沙那賣神 "久久紀"若室葛根神 天若日子 若國神 若天神 若御毛沼命 春日之千千速眞若比賣 倭飛羽矢若屋比賣 若日子建吉備津日子命 若建吉備津日子命 若倭根子日子大毘毘命 若倭根子日子大毘毘命 若子宿禰 水穂眞若王 山代之大筒木眞若王 若狹之耳別 "伊邪能"眞若命 若木入日子命 若建吉備津日子 若帶日子命/天皇 若木之入日子王 伊那毘能若郎女 眞若王 若建王 息長眞若中比賣 品陀眞若王 伊奢之眞若命 八田若郎女 宇遲之若郎女 若沼毛二俣王 幡日之若郎女 若野毛二俣王 弟日賣眞若比賣命 男淺津間若子宿禰命 波多毘能若郎女 若日下部命 若櫻部臣 若日下王 大長谷若建命/天皇 若日下部王 妹若帶比賣命 小長谷若雀命 糠若子郎女 若比賣 若屋郎女 倉之若江王 川内之若子比賣 橘本之若子王 長谷部若雀命/長谷部之若雀命 春日中若子
若湯(坐) 若狹國 伊波禮之若櫻宮
如取
若葦
    ◆◆語幹/命名用語◆◆
    わか 【若】
    ◆◆形容詞◆◆
    わか-し【若し】 …幼児/年少/未熟/活気
    ◆◆名詞◆◆
    わか-さ【若-さ】 …-さ
[名詞化接尾語]
  ⇑
  ⇓
    ◆◆副詞◆◆
    もし 【若し】
      若し〜(未然形)-ば[接続助詞]  …仮定
      若し〜や[係助詞]  …疑問・推量
<若〜者>
若不待取者[若し待ちて取らざらば]
若不然者
若亦非此神者
若其愁請者
若有賢人者貢上
若汝有得此孃子者
云若汝從吾言者
若及兵者

<若〜哉>
若人有門外哉[若しや門の外に人や有るか]
若有由哉

<若〜乎>
若有取此鉤魚乎[若し此の鉤を取りし魚有りや]
若有未誨乎
若獲其猪乎
若大后不聞看此事乎
吾疑汝命若與墨江中王同心乎
若有此家乎

<若〜矣>
若此御子矣[若し此の御子をば]
<他の言い回し>
若有何由[若しや何そ由有らむ] 故・・・
若恨怨其爲然之事[若し其れ為然之(しかくせし)事を恨怨みて]
若渡海中時[若し海中を渡る時にも]
若坐出雲之石𥑎之曾宮[若しや出雲の<いはや>の曽宮に坐します] 葦原色許男大~
若有急事[若し急事有らば]
若疑有如此大命[若しや如此(かく)大命有るか と疑ひまつる] 故・・・」


参考に、「萬葉集」の用例を見ておこう。
「古事記」の方針とは違う訳(變若/をち、けだし、しか)が散見されるが、"如し"や音素表記文字としての使用は倣っている。

太安万侶としては、"若葦"という表現で、この文字の基本概念を示してはいるものの、副詞【若し】を誤解されては拙いので、地文の多用は止めた方がよいと伝えているように思える。
[巻二#128]葦若末乃[葦の末の]
[巻二#153]若草乃[若草の]
[巻二#210]若兒乃[みどり子の]
[巻二#217]若草[若草の]
[巻三#307]久米能若子我[久米の若子が]
[巻三#327]海若之[海神の]わたつみ
[巻三#346]豈若目八方[あにしかめやも]
[巻三#388]海若者[海神は]わたつみ
[巻三#435]久米能若子我[久米の若子が]
[巻三#458]若子乃[みどり子の]
[巻三#467]若子乎置而[みどり子を置きて]
[巻四#650]變若益尓家利[変若ましにけり]をち
[巻四#734]若狭道乃[若狭道の]地名
[巻四#786]伊等若美可聞[いと若みかも]
[巻四#788]浦若見[うら若み]
[巻四#792]若木乃梅毛[若木の梅も]
[巻六#919]若浦尓[若の浦に]地名
[巻六#994]若月見者[三日月見れば]
[巻六#1034]變若云水曽[変若つといふ水ぞ]をち
[巻六#1046]又變若反[また変若ちかへり]をち
[巻七#1112]浦若三[うら若み]
[巻七#1177]若狭在[若狭なる]地名
[巻七#1219]若浦尓[若の浦に]地名
[巻七#1285]若草[若草の]
[巻七#1359]若楓木[若桂の木]
[巻八#1423]若樹梅者[若木の梅は]
[巻九#1740]海若[海神の]・・・海若[海神の]わたつみ・・・若有之[若くありし]
[巻九#1742]若草乃[若草の]
[巻九#1784]海若之[海神の]わたつみ
[巻十#1937]小松之若末尓[小松が末に]
[巻十#2095]末若[うら若み]
[巻十#2109]芽子之若末長[萩の末長し]
[巻十#2267]草若美[草若み]
[巻十一#2362]来背若子[久背の若子が]
[巻十一#2463]若月[三日月の]
[巻十二#2929]若雲[けだしくも]
[巻十二#3043]又若反[またをちかへり]をち
[巻十二#3079]海若之[わたつみの]わたつみ
[巻十二#3080]海若之[わたつみの]わたつみ
[巻十二#3127]若歴木[若久木]
[巻十三#3248]若草乃[若草の]
[巻十三#3336]之[若の]
[巻十六#3791]若子蚊見庭[若子髪には]
[巻十六#3793]将若異子等丹[若けむ子らに]
[巻十六#3868]若人見而[けだし人見て]
[巻十六#3874]身若可倍尓[身の若かへに]
[巻十九#4238]若久尓有婆[もし久にあらば]
[巻二十#4331]若草能[若草の]
[巻二十#4398]若草乃[若草の]
[巻二十#4408]若草之[若草の]

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