→INDEX

■■■ 「古事記」解釈 [2022.6.14] ■■■
[529]言,謂,曰,云,道,稱の峻別のはしり
"言,謂,曰,云,道,稱"[伊藤東涯:「操觚字訣」明40 須原屋 巻二語辞上pp50]さらには"白"まで、類似義の文字を並べられると、浅学な者には、どこが違うのか気になる以前に、そんなに細かく区別する必要がどこにあるのか、ということになる。

しかし、物書きのプロとしての自負があり、当代ピカ一インテリの太安万侶クラスになれば、ここらのいい加減な記載は気分悪しだろう。面倒だから、その気持ちを共有したくはないが、「古事記」ではどうなっているのか見てみたいとは思う。

"言,謂,曰,云"の用例数はそれぞれ100を超す。おかげで、4つの用法上の違い(意味)が自然に見えてくる。当時、どの程度常識だったのかは定かではないものの、実によくできたテキストと云えよう。・・・
≪云[一+𠫔]
  ["云"使用例] 序文0 上巻本文66 中巻27 下巻11
割注での使用があるので、基本概念がなんとなくわかる。その上で、用いられている箇所でのモノの見方を考えるように記載されている。
 <訓〜云〜> <上二柱 獨神各云一代 次雙十神 各合二神云一代也>
「萬葉集」でも割注で用いられている。
 <或云〜> <一云〜>
上巻のみ、地文記載例を見ておこう。
如此云期 於是二柱神議云「今吾所生之子不良
故號其伊邪那美神命 謂黃泉津大神 亦云 以其追"斯伎斯"
故 其地者於今云須賀也
爾八十神謂其菟云「汝將爲者
吾云「汝者我見欺」
至伯岐國之手間山本云赤猪在此山 必將殺汝云 而 以火燒似猪大石 而
御祖命告子云可參向須佐能男命所坐之根堅州國
以蛇"比禮"授其夫云其蛇將咋
鼠來云「内者"富良富良" 外者"須夫須夫"」
故 名其子云木俣神 亦名謂御井神也
其鳴音甚惡 故可射殺云進
天若日子於此矢"麻賀禮"云 而 取其矢
皆哭云 我子者不死有"祁理" 我君者不死坐"祁理"云 取懸手足而
何吾比穢死人云 而 拔所御佩之十掬劔
作燧杵 而 鑚出火云「是我所燧火者 於高天原者 神產巢日御祖命之・・・
爾天宇受賣命謂海鼠 云「此口乎不答之口 而
云「猶欲得其正本鉤」 云「我爲汝命」
爾海神自出見云「此人者 天津日高之御子 空虛津日高矣」
云三年雖坐 恆無歎
云 而於後手賜 如此令惚苦云「授鹽盈珠 鹽乾珠」

「萬葉集」の歌でも多数使用されている。
  [巻一#35]木路尓有云[紀路にありといふ]
  [巻二#101]神曽著常云[神ぞつくといふ]
と云うことで、このように規定した。
  ["い-ふ"の意味]伝聞(一般的/慣習的な既存の言葉)
この文字には元字が意味的に分岐後、再び合流するという錯綜した歴史がありそうだ。
  [文字発祥系譜]
      ┌→雲
     ↗ ̄↘略字化
    𠫔   云
     ↘_↗
         (注意)一般には、𠫔=肱-厷[𠂇+厶]とされている。
  [呉音・漢音]ウン
  [訓]い-ふ ここに
  [意味]
     ①[名詞]雲(古字)…雲とは天神の表現ということか。
     ②[動詞]説く
…こちらは言葉での表現。
     ③[助詞]無義
(語調表記)@句頭/中/尾…文字並び調整辞であろう。
≪言[辛+口]
  ["言"使用例]序文2 上巻本文62 中巻36 下巻21
葛城之一言主大神の<言>である。
  雖惡事而一言 雖善事而一言 言離之神
用例は、このイメージと齟齬なきものになっていると見てよさそう。
e.g. 意意祁命奏言 破壞是御陵・・・少掘其御陵之傍 還上 復奏言 既掘壞也
  ["い-ふ"の意味]主体的に発する神・ヒトの言葉
  [呉音]ゴン
  [漢音]ゲン
  [訓]い-ふ こと
≪謂[言+胃]
  ["謂"使用例]序文3 上巻本文63 中巻52 下巻17
国生みでの記載が象徴的。
故伊豫國謂愛比賣 讚岐國謂飯依比古 粟國謂大宜都比賣 土左國謂建依別
  ["い-ふ"の意味]称する。伝わる。[根拠あり]
  [呉音・漢音]
  [訓]い-ふ/いい おも-ふ いわゆる
  【熟語】所謂いわゆる
    故其所謂黃泉比良坂者 所謂久延毘古者 上所謂建豐波豆羅和氣王者
      汝所謂之言 何言   [割注]<所謂五村屯宅者…>

≪曰[囗+一]
  ["曰"使用例]序文0 上巻本文27 中巻91 下巻80
なんと言っても、<歌曰>の用法があるので、自然と概念が伝わってくる。
見立八尋殿 於是問其妹伊邪那美命曰 汝身者如何成 伊邪那美命答曰然善 告其妹曰女人先言不良 etc.
  ["い-ふ"の意味]単純かつ直接的な引用(発話記述)
  [文字発祥系譜]"口"からこぼれ("乚")出る。
  [呉音]ヲチ
  [漢音]ヱツ
  [訓]い-ふ/いわ-く ここ-に
      のたま-わく/のたま-う/のたま-わす

上記の"云,言,謂,曰"は、すべてが訓として、"い-ふ"が認定されているが、類似意義とされる"稱,白,道"には無い。・・・
≪称//稱[禾+爯](尓は日本簡体≠尔…称はブラウザ依存)
  ["い-ふ"的意味あい]称号的
  [訓呉音]ショゥ
  [訓漢音]ショゥ
  [訓訓]たた-える とな-える あ-げる 
      かな-う はか-り はか-る ほめ-る ね
  [用例] 稱十七世神 故亦稱其御名 故稱其御世 etc.
≪白[丿+日]
  ["い-ふ"的意味あい]告白的…答白という記載が典型
  [訓呉音]ビャク
  [訓漢音]ハク
  [訓宋音]パイ
  [訓訓]しろ/しら/しろ-い/しら-む か あき
      もう-す つくも
  [用例] 猶宜白天神之御所 爾伊邪那美命答白 悔哉 不速來 如此白而還入其殿内之間爾答白僕者欲罷妣國根之堅洲國故哭 速須佐之男命答白僕者無邪心 問賜僕之哭伊佐知流之事故白"都良久" 答白各"宇氣比" 而 生子 etc.
≪道[辶+首]
  ["い-ふ"的意味あい]「古事記」では、地理的概念としての語彙"みち"のみ。
  [訓呉音]ダウ
  [訓漢音]タウ
  [訓訓]みち

 (C) 2022 RandDManagement.com  →HOME