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■■■ 「古事記」解釈 [2022.6.20] ■■■
[535]煩悩の読みに従う
太安万侶が、"ぼ"の音素文字に起用したのは<煩>。

現代からすれば、かなり変った嗜好といえそう。
この文字は、訓読みの"わずら-わしい"か、漢字熟語での発音"ハン"として用いるのが通り相場。例外として、有名な煩悩(俗念で心を惑わす。[kleśa(音表記:吉隷捨)の漢訳語])と云う語彙でのみ、"ボン"と読む。(「古事記」では"ン"音は無い。)極めて仏教的な余韻を感じさせる音である。
表面的には、仏教に知らん顔を貫いていそうだが、この発音は気に入ったのであろう。

現代感覚だと、"ぼ"の漢字なら、候補は色々とあるのに。・・・
 [莫日系"ボ"]暮 募 墓…文字不使用
   慕([呉音]も[訓]した-う)…故後亦不堪戀慕
 母…「古事記」では"も"(毛)
 簿([呉音]ぶ ばく)…天皇之鹵簿
 牡([呉音]む も)…以牡馬壹疋
 戊([呉音]む)…文字不使用
 保…文字不使用(使っていれば、濁音化使用もあっておかしくないのだが。)

≪煩[火+頁(=頭)]
  [意味](煩雑で躁悶)憤悶煩亂
  [呉音]ボン
  [漢音]ハン
  [訓]わずら-う/わずら-わす
「古事記」では、"ボ"音表記はこの文字だけではなかろうか。
≪粒≫
  以飯粒為餌釣其河之年魚…"いひぼ"ではなく"いひ-つび"では。
["煩"用例]
  「・・・淤"煩"鉤 "須須"鉤・・・」…溺[おぼ]の意味
  [歌28] 比波煩曾[ひはぼそ=繊細]
  到能煩野之時…"野登[のぼ]"野
  [歌58] 迦波能煩理 和賀能煩禮婆[川上り 吾が上れば]
  [歌59] 美夜能煩理 和賀能煩禮婆[宮上り 吾が上れば]
  [歌71] 伊毛登能爐(煩)礼波[妹と登れば]
  [歌98] 和賀爾宜能煩理斯[我が逃げ登りし]
「萬葉集」も同様。
  [巻四#700]煩参来而[なづみ参ゐ来て]【訓】
  [巻十二#2982]吾乎令煩[我れを悩まし]【訓】
  [巻十五#3643]布奈妣等能煩流[船人上る]
  [巻十五#3724]也伎保呂煩散牟[焼き滅ぼさむ]
  [巻十七#3899]於煩保之久[おぼほしく]
  [巻二十#4465]於煩呂加尓[おぼろかに]
  [巻二十#4470]美都煩奈須[水泡なす]

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