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■■■ 「古事記」解釈 [2022.7.6] ■■■
[551]二音素仮名文字は避けたい
漢語は基本1文字1音節であり、頭声子音-韻母音(介音-主母音-補助尾音)の4音素からなる。さらに、これに対応した声調表現が付随する。
一方、倭語は母音語なので、五十音の1音が1音素であり、独立した子音という概念は本来的には当て嵌らないが、サンスクリット語法に倣って基本音素を定義したので<子音-母音>という2音素表現することになっているが、実質的には1音素である。
従って、五十音的な一文字で表記する音素に、漢字1文字を当てるのは一見妥当に見えるが、漢語と倭語の音の構造は根本的に異なるので、太安万侶は大いに悩んだ筈。
しかし、ついに決断し、これが日本語の潮流になった訳である。

歌の場合は、1音素1拍で五七リズムで詠むから、漢字1文字=1音素で表記すればまことに上手く運ぶが、地文、つまり散文ではそうはいかない。基本は倭の単語の翻訳漢語を当てるのが一番わかり易いのは自明。ただ漢字の数は一定しないし、必ずしもピッタリ一致する訳でもないし、固有名詞もあるから、どうしても表音表記が混ざるので悩ましいところだ。
ただ、意味表記か音素表記かが、大体創造できればたいした問題でもなかろう。重要なのは、このような実質的内容を有する独立した単語と、文構造用の助詞や情緒表現辞のような言葉を峻別すること。

従って語尾は3タイプになる。
 ●鼻音系… -n/ng -m
   ⇒語尾子音を付け2音素化 or 省略
   [-ン]
 ●閉鎖音系… -k -t -p/f
   ⇒語尾子音を付け2音素化
   [-キ]
   [-ク] 錫シャショ
   [-チ]
   [-ツ] 曷黠
   [-フ]
 ●重母音系(語尾子音欠落)… -i -u
   ⇒別母音追加2音素化あるいは非表記長母音発音 or 省略
   [-イ] 低帝提庭
   [-ウ] シュ
つまり、正規の音を倭語表記では、どうしても2音素になってしまう漢字があるが、歌の五七リズム感を表すためには1音素づつ表記が望ましい訳で(歌は原則音素文字。)、その場合は2音素目を省略することになる。従って、「万葉用字格」では、【正音】【畧音】という分類が設定されている。

<あま>で、どの様に文字を用いているか、例として見ておこう。

  [元意]至高無上(顚)
テンの-ンは消える。訓はわざわざ<訓高下天云"阿麻">と割注で示している。"あめ⇔あま"の読みの混乱を避けようということのように見えるが、音での表記文字には用いないことを示しているのかも。
 <あま/あめ>
  高天原たかあまはら
  あめつち 天地 玄黄[「萬葉集」巻十三#3288]
  天下あめのした
  天乃香具山あめのかぐやま
  天踈あまさかる
  天降あもり
  天漢あまのかは
 <テ/デ>
  葦邊乎指天あしへをさして[「萬葉集」巻六#919]
  美知尓伊天多知みちにいでたち[「萬葉集」巻十八#4116]
【序文-漢文】
   ・・・與議安河而平天下・・・~倭天皇…天劒獲於高倉・・・
    御大八洲天皇御世…天時未臻…C原大宮 昇卽天位…得天統而包八荒・・・
   可謂名高文命 コ冠天乙矣
   <自天地開闢始 以訖于小治田御世>


  [元意]雲(冂)下水≒天
・・・「古事記」では音は使用されていない。
 <あめ/あま>
 あめふる 雨零
   雨者零計類あめはふりける[「萬葉集」巻一#25]
   村雨落而むらさめふりて[「萬葉集」巻十#2160]
   小雨被敷こさめふりしく[「萬葉集」巻十六#2457]
 ひさめ あめ/霈霖
 あま
   相有之雨夜乃あへりしあまよの[「萬葉集」巻十一#3889]
   雨乍見あまづゞみ[「萬葉集」巻十一#2684]
 <漢文調題詞>忽起風雨不得辞去作歌[「萬葉集」巻十八#4138]
 あまごい 雩
 あまだれ 霤 柜


  [元意]親近
…「古事記」非使用
 <ambā【サンスクリット語"母"】⇒あま>
  比丘
 <に>
  吾尓尼保波尼われににほはね[「萬葉集」巻九#1694]
 <ね>
  柴莫苅曽尼しばなかりそね[「萬葉集」巻七#1274]

カイ [元意]天池(四海)
…二重母音は2音素化する。
 <あま>
  海 海人 海部/海人部 海士 海夫 海子 海女
  漁[童女] 泉郎 白水郎 礒人
   【国字】
  <たまご⇒あま>…タン/蜑の人々(蜑 蜑家 蜑女)
 <うみ>
  淡海あふみ 青海あをみ 鳥鳴海神とりなるみのかみ
   石見乃海いはみのうみ[「萬葉集」巻二#131]

訓 others あま…≫
 <あま-い>  [元意]美⇒五味の1つ
 あまざけ 醴
 <あまり/𠎳/餘> 剰/剩 仂 贏
 あまねし 溥 浹 暜 普 遍/徧 佈


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