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■■■ 「古事記」解釈 [2022.7.22] ■■■
[567][一寸寄り道]七十二候の"生"
猛烈な暑さだったので、涼を感じさせる緑陰と水辺がある都会の苑(園)地巡りをしてみた。この時期、わざわざ出向く人など滅多にいないだろうから、閑静そのものだろうし、気候が南洋化しているなら、日陰で風が通りさえすれば冷房部屋より快適な筈と踏んで。
それに、往復の交通関係は冷房中だし、地図を予め見ておけば外を歩くのはせいぜい数分。それとてたいていはビル影で日向を歩く距離は極めて短い。
穴場と睨んだ通りだったが、特定の箇所には結構人がやって来るようなので驚いた。
そこで気になったことがあり、と云うか大いなる誤解をやらかしたので、参考になりそうな気もするから、書き留めておくことにした。
植物のことである。

水辺ではどうしても、「古事記」冒頭の印象的な記述の"葦牙"が頭に被さってくる。・・・
日本での新制二十四節気≪穀雨≫の初候(一候)は葭始生。葭⇒蘆⇒葦と文字が変化するとか。
   <アシが芽を吹き始める。>
中華帝国の元ネタはかなり違うが、水辺の植物の発芽が目立つという点では同じ。若芽と云っても葦の場合は通常見かける植物と違い、水面に細くしっかりりそそり立つ姿だから、そこに生命の息吹を感じたということがよくわかる。
宣明暦では、萍始生。説文解字の部首では草/艸ではなく水/氵だが、苹と同一。
   <浮き草が芽を出し始める>
   [「禮記」月令]桐始華 田鼠化為鴽 虹始見 萍始生
大陸では、屹立する様より、水面を覆うように広がって行く兆候としての芽吹きに大いに感ずるのだろう。

七十二候での植物が"生える"という情景は限定的で、他はこんなところ・・・
二十四節気≪立夏≫の末候(三候)は竹笋生。
   <筍が生えて来る。>
黄泉の国からの脱出シーンを想い起させる内容だ。
宣明暦では、王瓜生。
   <王瓜からすうりの実が生り始める>
   [「禮記」月令]螻蟈鳴 蚯螾出 王瓜生 苦菜秀

もう1つが、この訪問時期。
二十四節気≪夏至≫の末候(三候)で、半夏生。
  <烏柄杓カラスビシャクが生える。>
宣明暦も同じ。
   [「禮記」月令]鹿角解 蟬始鳴 半夏生 木堇榮

注によれば、"藥名也 陽極陰生"で根から葉まですべて薬用になる植物だ。漢方には配合されることが多そうだが、適応症(塊茎:鎮咳剤)から見て、有毒性とも云えそう。
とは言え、植物好きだと、この時期、半夏生ハンゲショウを眺めてみるか、となるようだ。
実に、おかしな名前だ。
この頃の雨を半夏雨ハンゲあめと読むから、植物名としては"半夏草"としそうなものだが、そうしないからだ。しかし、どうしてそのような語法なのかについての説明は見かけない。

そのお蔭で、おっちょこちょいの植物についてのド素人は、大いに誤解させられることになる。
しかし、半夏生の別名については必ず触れられているので、だいぶ経ってからようやくわかる。

その名だが、"半化粧ハンゲショウ"。別名というより、別表記と書くべきだったか。
面白いから、当然、説明が付いていることが多い。ドクダミ類の植物だが、茎の上部に着く葉が半分だけ白くなると云うことでの命名、と。さらに駄目押し的に、俗称も紹介されることが多い。"片白草"と。
但し、「本草和名」918年では、和名"加多之呂久佐"とされているそうなので、それが本名と云うべきだろう。"形代草"を暗示しており、これらのうちではおそらく一番人気でもあろう。

水辺の植物ではあるが、粟や稗の畑の雑草と考えた方が当たっていそう。
ただ、ドクダミ類なので生薬になる。その名は"三白(草)"とされているようだ。葉は互生なので上部の三枚の葉が白化しているという呼び方だろう。

ここまで来ると、流石に素人も、どこかおかしい、と思い始める。
いくらなんでも黒(烏柄杓)=白(三白草)の筈があるまい、と。

そりゃその通り。
半夏生は小さな花が多数集まる房状で、もちろん白色で黒色部分など皆無。
そこで、ハタと気付くことになる。
  半夏生ハンゲショウ半夏ハンカ
半夏だが、花には魅力があるとは思えず(黄緑色の水芭蕉型形態)、と云って、葉を眺めてどこが嬉しいのかと思うこと必定の植物。こちらの花には確かに黒色在りである。

ここまで書けば、何を書こうとしているかおわかりだろう。
"片白草"の究極的呼び替え名前が"半夏生"。
いくらなんでも"半夏草"と呼べる訳がないから、こうなったと思われる。(河南で通用する三葉半夏とは、先端が3枚葉になっていることを云うだけで、三白草とは無関係。)

漢語の植物名称"半夏"とは里芋系の植物であってドクダミ系では無い。本朝での呼名は"加多之呂久佐"ではなく、"保曽久美"。

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