→INDEX

■■■ 「古事記」解釈 [2022.7.31] ■■■
[576]ニ人称は汝ではあるものの
二人称代名詞と云えば、<なんじ>だ。
<汝>
  [呉音] ニョ
  [漢音] ジョ
  [訓] な-んじ/な-むち/な-れ/な-ね
    い-まし/み-まし/まし い[(格助詞)-が]
    うぬ
     [正訓]イ-マシ [正訓]

どうして氵+女という文字が使われるのか不可思議。出所はわからぬが、汝水[鄱陽湖流入の撫河]の文字を同音ということで用いることになったという見方があり、それ以外にはありえそうにないから、そんなところか。
このことは、同音なら他の文字もアリということ。

確かに、漢語の二人称代名詞としての用語は汝だけでは無い。・・・
  【一般二人称代名詞】/女 若 爾/尓 而 乃/廼/迺

ただ、二人称代名詞のようにして、地位名称を【尊称】として(帝 王 夫子 子 公 君 卿)使えるので挙げ始めるとキリがなさそう。話の状況次第でどうにでもなる、このような用語を同列に扱うと、多種多様で訳がわからくなってしまう。

「古事記」の歌では、すべて音素文字<>。
叙事詩の地文はキャストの対話でシナリオが成り立っているが、相手の人称代名詞は全面的に<汝>が用いられている。
・・・と思ってしまいがちだが、会話文に<那泥>という音読み語彙が入っている。"汝命持兵入"の頭であり、な-ねと云うことになろう。相手への呼びかけ言葉か。

ところで、<な>だが、相手を指す2人称代名詞というだけでなく、同時に1人称でもあると見る説があるようだ。確証ありと云うほどではなさそうだが、説得力があるのは確か。
「萬葉集」で1人称文字以外の何物でもない"己"が、どう見ても2人称として使われているからだ。・・・
己父尓 似而者不鳴 己母尓 似而者不鳴
  …己[な]が父に 似ては鳴かず 己[な]が母に 似ては鳴かず [巻九#1755]
己之母乎 取久乎不知 己之父乎 取久乎思良尓
  …汝[な]が母を 取らくを知らに 汝[な]が父を 取らくを知らに [巻十三#3239]
後代の用法だが、歌舞伎や浄瑠璃で、相手を罵る言葉に「うぬ」があり、漢字では汝だけでなく己も使われる。
手前自身ということで、語彙は自分を意味するものの、それは相手の自分自身であって、話し手たる第一人称の自分自身ではないということになる。

漢語でも、人称転用表現はそう珍しいものではないようだが、それはあくまでも表現技巧。倭語の場合は突然相手の立場に乗り移って言葉を発してしまう訳で、本格的な転換である。
この辺りは重要なことだと思うが、「古事記」からそこらを読み取るのは難しそうだ。("私は眠い。"を2人称にしただけの"貴方は眠い。"という文章は、構造文言語では当たり前に成り立つが、日本語ではありえない。必ず"貴方は眠そう。"となる。)

-----------------歌-----------------
[歌3]【沼河日売】未開戸(婚姻拒絶)
後は 汝鳥[那杼理]にあらむを 命は な殺せ給ひそ
[歌4]【〃】婚姻承諾
奇に 汝[那]恋ひしきし 八千矛の 神の命
[歌5]【大国主命】嫡后の嫉妬の抑制
泣かじとは 汝[那]は言ふとも 倭の 一本薄 頂傾し
 
汝[那]が泣かさまく 朝雨野霧に立たむぞ
[歌6]【須勢理毘賣命】~語契り再確認
汝[那]こそは 男に坐せば・・・
 女にしあれば 汝[那]招きて 男は為し 汝[那]招きて 妻は為し
[歌28]【倭建命】初夜@所期の地
汝[那]が着せる 衣裾の裾に 月立ちにけり
[歌64]【天皇】志都歌之歌返家出皇后を迎えに出向く
汝[那]が云へせこそ 打ち渡す
[歌72]【天皇】雁卵の問
汝[那]こそは 世の長人
[歌74]【建内宿禰】祝歌片歌雁卵で寿ぎ
汝[那]が御子や 遂によ知らむ

-----------------上巻地文-----------------
於是問其妹伊邪那美命曰:「身者如何成・・・故以此吾身成餘處 刺塞身不成合處 而・・・詔:「然者吾與行廻逢是天之御柱・・・乃詔者自右廻逢 我者自左廻逢・・・
 先言:「阿那邇夜志愛袁登古袁」
 後伊邪那岐命言:「阿那邇夜志愛袁登賣袁」
吾與
所作之國
爾伊邪那岐命告其桃子
如助吾
國之人草・・・爲然者
賜天照大御神而詔之
命者 所知高天原矣 事依 而 賜也・・・次詔月讀命 命者 所知夜之食國矣 事依也・・・次詔建速須佐之男命 命者 所知海原矣・・・故伊邪那岐大御神 詔速須佐之男命:「何由以 不治所事依之國 而・・・爾 伊邪那岐大御神大忿怒 詔:「然者不可住此國・・・僕欲往妣國以哭 爾 大御神詔:「者 不可在此國 而・・・爾天照大御神詔:「然者心之清明何以知・・・先所生之三柱女子者 物實因物所成 故乃子也
亦八百萬神諸咲 爾天宇受賣 白言益
命而貴神坐故歡喜咲樂
爾問賜之:「
等者誰・・・亦問:「哭由者何・・・爾速須佐之男命詔:「其老夫 是之女者・・・告其足名椎手名椎神:「等 釀八鹽折之酒 且作廻垣・・・於是喚其足名椎神告言:「者任我宮之首・・・
爾八十神謂其菟云:「
將爲者・・・見其菟言何由泣伏・・・故 欺海和邇言:「吾與 競欲計族之多小 故者 隨其族在悉率來・・・吾云:「者我見欺・・・今急往此水門 以水洗身・・・身如本膚必差 故其菟白大穴牟遲神:「此八十神者 必不得八上比賣 雖負帒 命獲之 於是八上比賣答八十神言:「吾者不聞等之言・・・待取 若不待取者 必將殺云 而・・・告其子言者有此間者
謂大穴牟遲神曰:「其
所持之生大刀 生弓矢以 而 庶兄弟者・・・
故與
葦原色許男命 爲兄弟而 作堅其國
於是諸神及思金神答白:「可遣雉名鳴女時 詔之
行 問天若日子状者 所以使葦原中國者
天照大御神 高木神之命以 問使之:「
之宇志波祁流葦原中國者 我御子之所知國 言依賜 故心奈何
故爾問其大國主神 今
子 事代主神
故更且還來 問其大國主神
子等 事代主神 建御名方神二神者
隨天神御子之命 勿違白訖 故
心奈何
此豐葦原水穗國者
將知國・・・詔:「天宇受賣神 者雖有手弱女人 與伊牟迦布神 面勝神 故專往將問者 吾御子爲天降之道・・・猿田毘古大神者 專所顯申之 送奉 亦其神御名者 負仕奉・・・問言者天神御子仕奉耶之時 諸魚皆仕奉
又問:「有之兄弟乎」 答白:「我姉石長比賣在也」爾詔:「吾欲目合
奈何」
其弟火遠理命答曰:「
鉤者
爾鹽椎神云:「我爲

云 而 於後手賜 然而 其兄作高田者
命營下田 其兄作下田者 命營高田 爲然者
故爾告其一尋和邇 然者
送奉
稽首白:「僕者自今以後 爲
命之晝夜守護人 而 仕奉
-----------------中巻地文-----------------
①問之者誰也 答曰僕者國神 名宇豆毘古 又問者知海道乎
所言向之國故 建御雷神可降
「故建御雷神教曰 穿
之倉頂 以此刀堕入」故阿佐米余玖取持
者誰也・・・爾問誰也・・・爾問者誰也
今天神御子幸行
等仕奉乎
神沼河耳命 曰其兄神八井耳命
那泥命持兵入 而
吾者不能殺仇
命既得殺仇 故 吾雖兄 不宜爲上 是以命爲上 治天下 僕者扶命 爲忌人 而 仕奉也
⑩爾天皇 問賜之
者誰子也
問其女曰
者自
問少女曰
所謂之言
⑪爾沙本毘古王謀曰
寔思愛我者 將吾與治天下 而
爾誂妾曰 吾與
共 治天下
又問其后曰
所堅之美豆能小佩者誰解
⑫天皇詔小碓命 何
兄 於朝夕之大御食不參出來 專泥疑教覺
爾 天皇問賜小碓命 何

⑭爾其神大忿 詔凡茲天下者
非應知國 者向一道
具如先日 凡此國者 坐
命御腹之御子 所知國者也
⑮於是天皇 問大山守命與大雀命詔
等者 孰愛兄子與弟子
爾天皇問其孃子曰
者誰子
吾明日還幸之時 入坐

其國主之子天之日矛 爾問其人 曰何
飮食負牛 入山谷 必殺食是牛 即捕其人
其女人言 凡吾者 非應爲
妻之女
吾雖乞伊豆志袁登賣 不得婚
得此孃子乎 答曰易得也 爾 其兄曰 若有得此孃子者
-----------------下巻地文-----------------
⑯不治賜八田若郎女 故思不仕奉 吾爲命之妻 即相婚
⑰爾天皇令詔 吾疑
命若與墨江中王 同心乎
欺所近習墨江中王之隼人 名曾婆加理 云若
從吾言者 吾爲天皇 作大臣・・・曰然者殺王也
⑳令詔者
命之妹
爾語其后曰
有所思乎
何者
之子目弱王
爾其二王 言不惜粮 然
者誰人
㉑天皇 問其童女
者誰子・・・爾令詔者 不嫁夫・・・問其赤猪子曰 者誰老女・・・天皇大驚曰吾既忘先事 然守志待命
㉒曰
兄先儛 其兄亦 曰弟先儛
袁祁命曰 住於針間志自牟家時
命不顯名者 更非臨天下之君 是既命之功 故吾雖兄 猶命 先治天下 而

【付記】大穴牟遅おほあなむぢ神はあくまでもあな身靈みちであって、/己の表記転換には疑問を覚える。

 (C) 2022 RandDManagement.com  →HOME