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■■■ 「古事記」解釈 [2022.8.17] ■■■
[593]目合い夜這い文化 v.s. 結婚統制社会
「古事記」では<用婆比よばひ>だが、「萬葉集」では<結婚よばひ>との漢語語彙がママ用いられている。太安万侶からすれば、そのような表記は避けるべしとなろう。
[歌2]【八千矛神(大国主命)】婚高志國之沼河比賣幸行之時
    ・・・美し女を 有りと聞こして
    さ婚ひに[佐用婆比邇] あり立たし
    婚ひに[用婆比邇] ありか呼ばせ・・・

≪婚≫[呉音・漢音]コン[訓]えんぐみ
 …「古事記」での用法は多様。(欲- 将- 相- 共- 即- 仍- 令- etc.) 結婚は非使用。
 [正訓]結婚ヨバヒ
[巻三#257/260]鴨妻喚[鴨妻呼ばひ]
[巻五#892]寝屋度麻_ 来立呼比奴[寝屋処まで 来立ち呼ばひぬ]
[巻九#1809]相結婚[相よばひ]
[巻十二#2906]結婚尓行而[よばひに行き]
[巻十三#3310]左結婚丹[さよばひに]
[巻十三#3312]夜延為[よばひせす]

宗族第一主義社会(同姓婚は絶対禁忌。)においては、恋などどうでもよいことで、(もちろん、倭にも禁忌はあり、太安万侶はその語彙としては奸をあてている。)男系血統維持としての<結婚>を実現することが最優先される。そこに"よばい"感情など、邪魔者以外の何物でもなかろう。

従って、行儀は詳細を極め、そのような習俗が倭に受け入れられたかは定かではないが、両性の恋が基本の倭の感覚とは似てもにつかぬもの。
倭の社会は、あくまでも男女間における目合<相婚>であって、<娶生>行為が主軸のように記載してあるが、宗族コミュニティが外部から取女/娶を挙行する文化が存在している訳ではなかろう。
この語彙だが、文章的に、反宗族的雰囲気を醸し出しているともいえよう。動詞"生"の主語は男性たり得ないからだ。
そんなことを考えると、「古事記」記載文は、婚姻を巡る語彙で、わざわざ厳密感を醸し出させている可能性もあろう。
当たり前だが女性と結婚する訳だから、男性からすると娶になり、それを女性側から見れば嫁ということになるとの注記を付けているようなものだから。

「萬葉集」は、恋心を詠った歌を大量に収録しているにもかかわらず、その正反対の社会的規制を象徴する語彙を平然と訳語として取り入れていることになる。
おそらく、「万葉用字格」は、その辺りのセンスを感じ取って編纂されている。この点でも、「古事記」読みの参考書として推奨に値すると思う。
ここらは、もう少し見ておこう。

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