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■■■ 「古事記」解釈 [2022.9.28] ■■■
[635][付録]安万侶感覚での動詞活用文法
倭語〜現代日本語での文章とは、叙述部が核であることにつきる。この内容豊富化に不可欠なのが物・事を表現する語彙で、関係性を示しためだけの詞がその語尾に付く。なんらの政治的強制力を発揮し得ない筈の「古事記」が定式化したのである。
そんな話をオマケとして書いておこう。
(強制力とはどのようなものか、経験が無いとわかるまい。昔のことだが、コンピューターと表記はできませんので最後の文字は削除しますと言われ、余りに非常識な表記法に映ったが、異を挟むとカルトとされかねないとのこと。いかんともし難しである。現実社会とはそのようにして回っている。)

活用についてである。(西洋言語学の創作翻訳語彙かと思っていたら、本居宣長が定めた国文学用語らしい。)
確かに、「古事記」を読もうとすると、歌は活用語尾1音1文字なので活用語尾が自明だが、地文はそこらの表記が曖昧なので、言葉に出してどのように読んだのか考え始めれば一番気になるから、そのための分類用語は不可欠となるから道理と言えよう。
具体的に、宣長がどのように論を展開しているのかには興味を覚えないので読んだことはないが、太安万侶が活用語尾について認識していない筈はなく、そうなると、どう考えていたのか気になってくる。

小生が出した結論としては、「理想的には活用語尾はローマ字表記が望ましい。」と語る一方で、「それは無理だから、放置するのが一番。もともと話語なので、そこらが曖昧であっても、たいした問題ではない。」とアドバイスしそうな感じがする。
王朝毎に標準化を繰り返して来た中華帝国は、官僚文章語の社会であるから、同様に日本語の表記規定を作ることは必要になるが、それに注力すれば話語と文章語が分裂していくだけのことで、朝廷がどちらの方向を目指すかできまるだけの話、という見解を披歴することになるのでは。

何故にローマ字表記に意味があるかと言えば、学校文法の一番の難関である、○○行活用なる見方を止めることになるから。この呼名は最悪で、仮名の"子音-母音"構造を直接見せず、丸暗記を強要するためのもの。暗記に好都合な整理の仕方だから、現代語の標準化には便利であるのは間違いない。(これを古語の世界に延長させるのは当然となってしまうが、これには重要な問題が絡むので別途記載したい。)暗記教育嫌いの一部の人間には耐え難いものがあるが、コミュニケーション確立上不可欠の学びであることは否定のしようが無い。(暗記嫌いといっても色々なタイプがあり、数的には、覚えることが苦手とか、学ぶこと自体に価値を認めない人がほとんど。その話をしている訳ではない。)

この感覚が生まれる原因は2つある。

1つは修得効率化最優先の整理方法に映る点。学校文法である以上それで結構となるが、ビジネスマンの対象分析ならあり得そうにない。素人なら、まず間違いなく、以下のようにするだろう。(しかし、この分類は直接的な実用性には全くつながらない。役に立つのは、日本語がどのような言語かを考える時。)・・・
 ---基本骨格部---
  ❶文末形(終止形)
   ❷[非文末]名詞的形(連用形)
   ❸[非文末]名詞修飾形(連体形)
  ❹特殊文末型=後置終助詞形(命令形)
 ---条件提示部---
  ❺後置バ助詞形(已然形/仮定形)
  ❻後置特殊助詞形(未然形)

もう1つは、このお蔭で、日本語発音の一番の特徴が隠されてしまう点。
活用が無い助詞を、漢字でなく仮名にしたのは、語彙の切れ目を示すことになるから秀逸な表記方法であり、「古事記」はその方向に先鞭をつけたと云うことになるが、問題は非助詞の活用部分にも使う点。
倭語では、<子音-母音>は発音の最小単位であって、これを<子音>+<母音>に分けることができない。仮名はさらなる音には分解できないから、この表記方法は理論上正統ではあるものの、活用とは語末の<子音-母音>の母音部分の転換でしかないので、それが見えてこない整理方法は難ありということになる。
(・・・単にそれだけのことでしかないが、ここらは膠着/黏著/agglutinative語*の特徴について熟考すべき箇所では。
ロシア語を第二外国語とし大学院受験を通過した人間からすれば、物・事の語彙の活用ほど訳のわからなぬものはなかったし、西欧語の述部の活用など例外だらけ。そこらの活用とは全く違うことを肌で感じ取る必要があると思う。一方、漢語とは、表記上品詞の区別無しの上に句読点排除という、官製統制語以上ではないから、活用など無縁。この言語との差異を学ぶことは極めて重要と思うのだが。)

上記の6活用形の語尾変化を覚えるには至極便利だが、倭語〜日本語の本質に触れずに済ますことになるので、好きになれない、と云うこと。
すべての音素は母音でしか終われない言語にとって、一番重要な表現方法とは活用語尾と助詞なのだから。

その感覚だと、大分類はこうなる。・・・

  +++++古文動詞活用分類+++++
【古格活用】
---ナ行---⇒[現代文]五段 <ぬ><往/去ぬ>
---カ行---⇒[現代文]カ行変格 <_>
---サ行---⇒[現代文]サ行変格 <る>
【正格活用】
---四段---⇒[現代文]五段
【破格活用】・・・極めて限定的。
---㊃㋶四段ラ行---⇒[現代文]五段
り><り><はべり><_いまそ(す)かり>
---上一段---⇒[現代文]上一段
る><る><る><る><る><る><る><る>(うしろ〜 おもん〜 かへり〜 かんが〜 こころ〜)る><る><る><る><る><る><る><ひきゐる><もちゐる>
---㊁㋳ヤ行上二段---⇒[現代文]上一段
ゆ><ゆ><むくゆ>
---下一段---⇒[現代文]五段
る>
---㊁㋐下二段(ア行)--⇒[現代文]下一段
_>(心得 所得)
---㊁㋻下二段(ワ行)---⇒[現代文]下一段
う><う><う>

以下のローマ字表記は頭が働きにくい上、適当に作って見直しもしていないので、間違いが多いと思うが、気にしていない。知りたいことは大まかな全体像だからだ。・・・変格活用が色々あると言っても、それは音便表現による変化と似たところがあり、大きな違いが生じている訳ではないことがわかる。
・・・混淆言語であるにもかかわらず、驚くほどの規則性が保たれていると言ってよいのでは。

こうなると、話語に拘って文字化を避けていたのも合点がいく。すでに文法的に洗練された会話が可能だったということを意味していそうだからだ。文字化すれば、話語より、文章語に優位が与えられてしまうから、折角完成形にある話語文法がずたずたにされかねないという危惧の念が生まれてもおかしくなかろう。

     ❶終止形(-u) ❷連用形 ❸連体形
【古格活用】㋤㋕㋚… -u -🅸 -ur🅴
【正格活用】㊃__… -u -🅸 -__u
【破格活用】㊃㋶_… -ri -r🅸 -_ru
      ㊀_… -iru -🅸 -iru
      ㊁_… -u -🅸 -uru
      ㊀_… -ru -🅴 -🅴ru
      ㊁_… -u -🅴 -uru
     ❹命令形(〜ヨ・・・省略可)
【古格活用】㋤__… -🅴__
      ㋕__… -o__/-oyo
      ㋚__… -🅴yo
【正格活用】㊃__… -🅴__
【破格活用】㊃㋶_… -r🅴__
      ㊀_… -🅸yo
      ㊁_… -🅸yo
      ㊀_… -🅴yo
      ㊁_… -🅴yo
     ❻未然形
【古格活用】㋤__… -a
      ㋕__… -o
      ㋚__… -🅴
【正格活用】㊃__… -a
【破格活用】㊃㋶_… -ra
      ㊀_… -🅸
      ㊁_… -🅸
      ㊀_… -🅴
      ㊁_… -🅴
     ❺已然形
【古格活用】㋤㋕㋚… -ure
【正格活用】㊃__… -__e
【破格活用】㊃㋶_… -_re
      ㊀_… -ure
      ㊁_… -ure
      ㊀_… -🅴re
      ㊁_… -ure

【*】膠着/黏著/agglutinative語は西欧語(屈折語)・漢語(孤立語)とは系譜的に異なる。
 エラム語/シュメール語…系統不詳
  ステップ系(チュルク/突厥・蒙古・満州/ツングース・朝鮮)
     飛び地[アジア系](マジャール・フィン)
  海系(タミル/ドラビダ・スンダ)
   チベット・ビルマ
   日本列島
上記は出アフリカ⇒シュメール⇒タミル⇒ビルマ⇒チベット⇒(揚子江中下流)とスンダ⇒(西太平洋島嶼)という流れを仮想したもので、言語学的な見方ではない。
尚、日本語名詞は完璧な孤立語であり、語順の柔軟性もあり、ステップ系ではないと思う。語彙そのもので見れば、中華帝国官語が多く含まれているものの、基礎語彙は全く異なっておりステップ系とも全く一致を見ない。
倭語の基層は、海系・チベット・ビルマと同類の可能性が高そう。
アイヌ語は、発音が全く異なるし、基礎語彙の共通性は皆無である上に、フラグメントな部族語の総称でしかなく、交易関係性による場当たり的な語彙流入のみと考えてよさそうである。


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