→INDEX ■■■ 「古事記」解釈 [2023.4.4] ■■■ [650]非史書だが歴史観&文明論の貴書 と云うか、一般的には、国史的な話は歴史観を形成には全く役に立たないどころか、おそらく逆である。国家に属する以上常識として頭に入れておく必要があるというに過ぎない。 言うまでもないが、反体制的な視点の書き換え書に至っては、読むのは時間の無駄である可能性の方が高いと思われる。 ただ、現代の見方でも、例えば、日清・日露戦争にしても、ほとんど2国間での戦争というイメージで、列強に後れをとらずに動いたと解釈されているようだが、どう考えたところで列強の支援を受けての勝利であり、列強側から見れば代理戦争以外のなにものでもない。 "歴史観"とはこのような見方が当たり前にできるかどうかである。言うまでもないが、インテリの話をしているのであって、そんな"当たり前の"見方を広言する馬鹿者はいない。 ただ、定番英訳「古事記」は古すぎ、当時の古典的宗教道徳で記述されているので、ほとんど意味が無い。日本語読者しか、その恩恵に浴しないことになる。 ・・・こんなことを書くと、日本最古の書を単に貴んでいるだけに受け取られかねないが、それはある意味当たっている。海外から見ると、2〜5世紀に中華帝国圏から独立した島嶼国に映るだろうし、「古事記」はそれを描いた書であり、世界史的には極めてマイナーな話でしかなく、そう見ても間違いではない。そこがかえって重要なところ。 天竺・震旦と比べれば、日本列島は極東の最果ての地であり、たとえ全土を統一したところで、比較対象にして云々するような規模ではない。 ところが、と云うか、だからこそ「古事記」の存在が光り輝くのである。 広大な大陸の東端の太平洋の海上にある小さな島々は、明らかに辺境中の辺境。しかも、箱庭の様な地勢だから、フラグメントで閉鎖的な部族社会であってもおかしくない。ところが、海外交流は古代から活発で、冒険者や、難民等々が雑居しする地であった。従って、分裂抗争不可避に映るが、この地から難民として逃亡するとか、新天地を求めることは難しいせいもあるのか、時間軸・出自・信仰の違いを乗り越え、中華帝国に呑み込まれないように、雑炊文化的な統一国家形成路線を歩んで来たようである。 この結果、日本列島は俗に言う"渡来文化の吹き溜まり"状態になっていったと思われる。(儒教圏は革命是認で、過去の都合の悪い部分は歴史として残らない。ヒトもどうなったのか定かでない。朝鮮半島に至っては、鎌倉時代以前の記録は現地では全て消滅させられており、ヒトの継承も不明である。古代はフィクションで語るしか手がない。例えば、唐代の書「酉陽雑俎」は日本残存であり、まさに書名通り。) 「古事記」序文では、いかにも日本は道教国であるかの如く書かれているが、正鵠。道教が仏教の影響で宗教として整備される前の、古いタイプの土着信仰がママ継承されているということ。儒教は古いが、残存のさらに古い漢籍から判断すれば、単にそれらの観念を受け継いで、国家体制維持に貢献できるように整理した宗教に過ぎまい。宗教革命というか、天帝信仰の国教化によって、土着神話を撲滅した過程を経て立ち上がった思想に依拠しているのは間違いない。 「古事記」のトーンは反儒教だが、それは儒教確立以前の信仰をママ表出しているということになろう。書としての成立は712年だが、その中味の意味するモノは儒教以前であり、断トツの古代である。 形而上学的人格~が宇宙の始まりに登場せず、具体的物質感覚で創世記を表現する点も、いかにも超古代無文字社会の<概念形成なき時代>を彷彿させるものがあるし。 その辺りを感覚的に捉えることができるか否かは、多分に個人的資質によるだろう。それに応じて「古事記」の価値は大きく変わってくる。(現在の位置付けは、「記紀」読みが原則である以上、どう装飾表現しようと国史の補助文献でしかない。もちろん高く評価する人も大勢いるが、それは後世になって突然出現した流れに過ぎず、一部を抜き出してハイライトを当てているか、理由はよく分からぬが、神典と決めたから。) 「歴史観」という観点では、人気を博した、サミュエル・P・ハンティントン:「The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order(文明化の衝突と世界秩序の再創造)」1996年より、「古事記」を読んだ方が良いと思う。但し、勝手な想像である。小生は、日本の風土論の焼き直しではないかという印象を受けたのでまともに読んでいないからだ。 この本の内容は、<東西対立(冷戦と第三世界の補正的追加)><(184にも達する)国民国家>といった国際政治観でなく、文化論("文明")から世界秩序を眺めているとされているようで、小生は、<米国覇権時代の終焉>を見て取ったという背景ありきと理解した訳だが。 "文明"という概念は曖昧であって、要するに、<言語-信仰-自己認識-ライフサイクル上の慣習-社会制度-etc.>によって、世界の動きが規定されているように見えるという、概念形成苦手の日本人的には当たり前の話でしかなかろう。 そもそも一知半解的な"その他"部分をかなり含んでおり、いかにも「文明の衝突」という結論に合わせてまとめられた書という印象も強い。 非常識にも、読んでもいないのに、書いている訳だが、文明分類を見れば、それで十分という気がする。 客観的に見れば、米国の軍事覇権が、軍事技術の変貌・エネルギー支配と需給構造変化・信仰共同体回帰という流れで崩れて行くことは歴然としているからだ。(それを直視できず、徐々に覇権の地位から手を引こうとしている米国政治が一番の問題となるが、そうなると秩序はどうなるかということになる。世界秩序が緩んで行くのだから、様々な反米国覇権の試みが生まれる訳で、それをいくつかのパターンに分けようとの思考方法が生まれて当然ということ。)そうなれば、覆い隠されていた対立は自動的に顕在化することになり、衝突回避より、積極的な現状打破を画策する動きが発生し状況は深刻化することになろう。 ・・・自明ではあるまいか。 ハンチントン文明圏区分は、定義はどうあれ、昔からよく見かける単なる宗教的地域表現にしか映らず、概念の再設定以上ではないのは明らか。換言すれば、宗教対立が表面化してくる以上ではなかろう。 太安万侶流に現代解釈すれば、この分類はこんな風に解釈することになろう。 ❶原罪-救済系理念宗教 …個々人の、形而上の絶対~への信仰告白を基盤とする。 ①Western…8世紀の西方教会由来(宗教改革期有り) 信仰コミュニティ創出権を保障する国家観 ②Orthodox…16世紀の正教の東ローマ帝国(宗教改革期無し) ハーン(中国の"元"帝国)型統治のスラブ語通用圏 ③Islamic…7世紀アラブ発祥のイスラム教(武力統治による祭政一致) 部族集合体を最高教理学者が絶対的アラブ経典をもとに管理 ⑦Latin American…カトリック・宗主国語化した植民地 反植民地的感情と生活上の功利主義の相克 ❷死後安寧希求宗教 …現実社会の身分制度の存在に無関心な哲学的信仰。 ⑤Hindu…【天竺叙事詩教】 職業的身分細分社会維持の風土 ④Buddhist…一応の括りでしかなくほとんど意味薄し。 梵/パーリ語(出家)系・西藏/蒙古語翻訳(救済)系 ❸天命独裁者ありき宗族崇拝教 …"語族≒民族≒帝国"像のなかでの血族繁栄信仰 ⑧Sinic…【儒教+中華思想】 天子独裁-官僚統治の"孝"ヒエラルキー社会(膨大な被統治層と支配域) 実利あれば他宗教を取り込み被せるが、何時でも外せる。 ❹雑炊型信仰 …"忠"重視による安定社会化路線 ⑨Japanese…【超古層信仰温存】 吹き溜まり文化(神道は死を扱えないので分類俎上に乗らない。) 信仰の本質追求を回避し習合推進⇒"超"古代観念残存 個感覚を欠くので中央集権的統制好みになりがち。 ❺排他的感情を籠めた部族型の様々な宗教 …古代信仰の焼き直し。 ⑥African…雑多 ○the others…エチオピア ハイチ イスラエル 言うまでもないが、区分間でのコンフリクトは小さなものではなかろう。①が主導した経済のボーダーレス化でそれを極小化できる訳が無かろう。 もともと、❺が存在する以上武力闘争勃発は必然。外部から力で抑えるしか手のつけようがないのは自明。しかし、外部勢力にとって、見かけ上静かにさせる価値がどれだけあるかはなんとも言い難し。抗争を利用して利をあげるのが世界政治の現実。それぞれの国史には都合よく書かれる事象になるだにのこと。 それでは、他の❶〜❹は違うかと言えば、五十歩百歩でしかない。 特に、⑧に至っては、敵を亡ぼすことが子々孫々の義務とされるから、当座の平穏とは長期的視野での臥薪嘗胆。勝利の可能性が見えた途端に開戦となるだけ。従って、宗族主義とは相いれない社会の⑨はそうした風土の人々に対応すべく生まれた姿勢とも言えないでもない。 ❶は理念型であるから、❹雑炊型とは根本的に異なっている。理念が違うのに、"宗教の違いの克服"とは言葉の綾でしかない。覇権国によるパワーバランスの舵取りで、対立の熾烈化が避けられているだけ。 尚、無神教だが、現実には②や⑧の外延として生じただけ。全く異なる区分の宗教勢力圏をも囲い込む方策でしかない。(②の場合、先ずは民族文化重視路線を敷いて、有能な人々を顕在化させてから、その芽が二度と生じないように全員粛清。その上で、文化的対立を煽る政策を進め、対抗連合を難しくさせる統治を行っただけのこと。⑧は、反儒教を標榜することで王朝転換に成功した独裁者の私兵による軍事独裁支配を旨とし、都会と農村の身分制の徹底強化による官僚支配構造強化を肝としたに過ぎない。) (C) 2023 RandDManagement.com →HOME |