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■■■ 「古事記」解釈 [2023.4.28] ■■■
[674] ユーラシア古代文明の残渣[3]スラブの残滓
「古事記」を検討しているというに、突然、現代政治の話を絡ませてきたので、大いにとまどわれたかも知れない。
しかし、「古事記」を、その様に視野を広げて、頭をフル回転して読まないとなにもわからないに等しいと言っても過言ではなかろう。神話って面白いネ、で良しとせずに、気になった箇所を一寸考えるだけでも様々な事が見えてくるのだから、ひと手間を割くだけの価値は大いにある訳で。まさに、太安万侶の渾身の作品であり、その意気に応えて読み込んで欲しいと思う。

それにしても、福沢諭吉は流石。自称"知的”層は、リベラルアーツに触れる意味が全くわからぬ人だらけの上、暗記科挙的頭脳に覆われていることに、この時点で早くも気付いているからだ。しかし、その後の状況を見るに、その指摘が役に立ったどころか逆の方向へ進む切っ掛けを作った様にも思えてくる。さらには、現代でもその状況はさっぱりかわっていないどころか、今や、実態としては反科学と反知性主義が主流であり、ヤクザ的社会ルール破壊者を崇めるまでに。

マ、そこらは置いておくとして、「古事記」を珠玉の書と言えるポイントの1つについて、古代文明論的視点で見るとはどういうことか例を描いてみたい。時間があるなら、のんびりとお読み頂ければ幸い。

検討対象はスラブ。

Slave/奴隷の語源と目されていることからわかるように、辺境の野蛮人との意味での侮蔑語。
突然にこんなことを持ち出すとはいかにも唐突、と感じたなら、先ずは自分の頭が暗記脳であると自覚した方がよいだろう。「古事記」読みと言うに、ユーラシアとかアジアいう概念を持ち出すこと自体がもともと恣意的な姿勢なのだから。ともあれ、暗記脳という言葉で不快に感じてもらったならそれで十分。以下、そんなことはお気にせず進んで欲しい。

このスラブだが、古代の状況は、考古学的に少しづつ解明されているものの、日本列島同様によくわかっていない。しかし、それでも、テキストの日本史程度に古代史を纏めることは、そう難しい訳ではない。(思惑がありそうな解説を見かける分野であり、定番があるとは言い難い。ここでは、小生がテキトーに記述している。その程度のものなのでご注意のほど。)・・・
⓪球状アンフォラ土器(新石器)文化[前3400年〜前2800年]
①縄文絞土器文化[前2900年〜]
②トシュチニェツ(青銅器)文化[前1700年〜前1200年]
 …プロト・スラヴ人
③ラウジッツ/ルサチア(骨壺墓地)文化[前14世紀〜前6世紀:初期鉄器]
④ポメラニア前期鉄器文化(石棺内人面形骨壺時代)[前7世紀〜前2世紀]
⑤プシェヴォルスク(鉄器)文化[前2世紀〜4世紀]
⑥プラハ(@南)+コルチャク(@北)文化[5世紀〜7世紀]
ヴィストラン族・マソヴィアン族・シレジアン族・ヴィシラン族・・・ etc.[8世紀]
⑧モラヴィア王国@チェコの支配地[9世紀]
⑨ポラン族(=平原レフ族+湖水ゴプラン族)[10世紀]
⑩<ポラン族ピャスト朝ポーランド王国>[963-1296年]
  966年ポーランド公国@キリスト教改宗
  1025年ポーランド王国
以上、ほぼ、現在のポーランドとその南側のチェコ+スロバキア、さらにはドイツの東辺に渡る地勢的に括れる領域の地での流れを示しているが、日本列島と違って、古代から狩猟⇒牧畜(=生産力)社会なので、民は土着的であるとは言い難く、どの時点からスラブの社会と見なせるのかの判定は難しく、現時点ではテキトーに判断するしかない。
(おそらく間違った説である<古代印度土器文明⇒[西:スラブ]縄文絞土器文化+[東:倭]縄文土器文化>の末端文化説を引っ張って来たい訳ではない。)

目を見張るのは、「古事記」成立から250年後に実質的王権が初めて成立した点。辺境だからこの時点迄見逃されたということになろう。
言うまでもないが、地域に君臨している部族首領が独断的に改宗を決断し、土着の呪術的神々への信仰、呪術や占いの類を、反国教的信仰とみなしたのである。このママでは野蛮部族として、せいぜい傭兵役として使われた挙句、最終的には処断されること間違いなしと判断した上での決断だろう。
このコペルニクス的展開があって、初めてスラブ民族国家が誕生したのである。(以後、ポーランドは現時点迄カトリック国の歴史を歩むことになる。)簡単に言えば、スラブ語の「聖書」が生まれたことを意味するが、そのことはこの時点迄民族としては認知されていなかったことになる。もっと単純化すれば、スラブ語はこれ以前は会話語でしかなく、文字表記無しだったことになる。ここまでよく頑張ったもの。
・・・この画期を日本列島に当て嵌めれば、「古事記」の成立時点ということになろう。しかし、日本列島とは違い、絶対~への帰依を旨とする社会への体制変更だったから、「古事記」の様な書は生まれなかったのである。

要するに、言語の文字表記化によって、それ迄伝承されて来た神々の神話や部族の想い出の類は"原則"抹消。しかし、常識的に考え、ヒトは同じなのだから完全消滅ができる訳もなく、神学的に対立を見逃してもらえそうな民族祭祀だけは容認されたようである。その結果と思われるが、以下の3~が、必ずしも確定的ではないものの、現時点で痕跡的に辛うじて民俗として残っている。・・・
≪三柱神/トリグラフ
❶Перун(雷神)
 …「原初年代記(850-1110年)1113年キエフ洞窟修道院
❷Marzanna(冥界女神)
 Mara/魔羅@サンスクリット語(=死・冬枯)&再生(春芽生え)
❸Сварог(太陽神 or 火~)
 …Svarga@サンスクリット語 xwar@ペルシャ語
現在の人々にとっては、これこそ民族固有の神々だったとの想いがあるだろうが、突然に全面的改宗可能な体質である以上、それ以前の信仰をこの3~から読み取れるとの論理は成り立たないので注意が必要。その様な疑問を抱いて、なんらかの指摘をすれば民族敵対者として扱われるだろうから、実態は全くわからないと思った方がよい。・・・e.g. トリグラフに意味があるのか、主神ありと言えるのか、女神は対偶無しなのか、この3~は古代から存在していたのか、他の神は存在していたとしたらどういう関係なのか、・・・。

ここから、「古事記」を珠玉と見なす理由がお分かりになれるだろうか。

太安万侶は、朝鮮半島の惨状を見てわかったに違いないのである。
属国であっても、国家として認められるということは、以後、中華帝国官僚の手柄争いに使われるだけのこと。上手く使えるとなれば、その先は全面的漢化か地域王朝消滅のいずれか。
一方、漢語をママ受け入れて儒教国になる道もある。小中華路線であり、圧倒的武力を握れるようになれば、理論上は中華帝国の覇権を握ることも可能になる。しかし、表記文字を持たないなら、それは自ら率先して進める漢化路線以外のなにものでもない。自動的に、それまでの信仰を全て捨て去る嵌めに陥ることになる。
(繰り返すが、結局のところ、半島は、様々な信仰といくつもあった言語と文化を辿れないようにすべて抹消することで、一つにまとめあげたことになる。[小中華思想の儒教ベースの独裁国である以上、墨子が指摘するように、武力的統一完了迄、戦乱は止むことはあり得ない。戦乱回避策は、誰も勝者になれそうもない状態を持続して、開戦を先延ばしにする以外に手はない。無理筋であるが。]ところが覇権樹立時点で、ようやく、歴史をすべて失ってしまったことに気付いたらしく、サンスクリット語模倣の独自文字表記を始めたが、遅すぎ。それは日本では鎌倉期なのだから。このため、結局のところ中華帝国の辺境の属国としてご都合主義的に使われ続けたと見てよさそう。)

・・・「古事記」とは、天武天皇と太安万侶のインターナショナル観と文明論的感覚あってこそ成立した書である。
稗田阿礼なかりせば、日本列島に世界の古代文明の残滓が残ることはなかったというのが、序文での感謝の辞になったと言ってよいだろう。
この辺りは、現代人も納得できる感情とは言えまいか。

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