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■■■ 「古事記」解釈 [2023.6.9] ■■■
[713] <賜>で見える記述方法
倭語〜日本語の基本ドグマは、述部を最後にもってくること。しかし、「古事記」の漢字表記文ではそうならない文章が多い。それは漢文の<SVО>に従って記載しているからとするのが安直な解釈だが、それにしては体裁が異なっている場合が少なくなく、その解釈は2通りあり得よう。
 ①漢文法を逸脱した漢文。
    О⇒Vという語順の文章も少なくない。
 ②倭語の特徴に合わせた表記用語順を設定した倭文。

解説にははっきりと書いていないのでわからないものの、②とは考えないようだ。一般的には<変体漢文>と呼ぶことになっているようなので、未熟からくる誤謬を含むタイプと見なしているのだと思う。
小生は①である筈無しと考えるので、少しそこらを検討してみたい。

取り上げるのは、動詞<賜ふ>。どの様に使われるのか、素人なので知識不足ではあるものの、2つの言い回しがありそう。
  臣下(天皇より) ○○を 賜る。
  (天皇は) 臣下○○を 賜ひ・・・。

さて、上記のどちらでもよいが、倭語では、主語は自明なら文頭に必要ではないが、目的語は表記しないと意味がわからなくなる。例えば、この様な用例がある。・・・
  賜御歌
  賜名號置目老媼
  若櫻部臣等若櫻部
  其曙立王

<О 1 V О2>という、驚くべき語順の用法が見て取れる。漢文の<SVО1О2>系では、あり得ぬ文法だが、倭語〜日本語でも動詞の前後に目的語が配置される文章などついぞ見かけたことなどない。
ここらは、たまたま間違う手の語順ではないから、独特の記載方法が設定されていることになろう。考えてすぐに答が見つかる筋の話ではないから厄介だが。
ただ、表記語順はどうあれ、意味は通じるのが倭語の特性ともいえよう。
一番簡単な説明としては、目的語という概念が無いということになろう。つまり、すべて動詞の補語として同格と見なす訳である。話語とは圧倒的に述部が重要なので、他の語彙の役割はマイナーとなることを言っているにすぎないが。
そうなると、目的語とは役割に応じた助詞が後置された名詞ということになろう。極言すれば、Sも<は>という助詞を付ける動詞の意味付けの補語となる。ただ、動詞の後ろには置けないということで特別扱いされてはいるものの。
<SVО><SVО1О2><SVОC>ということではなく、<SVC1><SVC12><SVC13>と見ていることになる。この手の見方は、倭語の文章構造は<S>が表現されないことが多い<Cx 0-nV>と考えることを意味していそう。このまま逐訳的に漢字を羅列すると、品詞の区別なき漢字であると、文末記号が無いと、どこで終わるのかよくわからなくなってしまう。従って、文末が自明でない場合は、C⇒Vで終わらせずに、逆転させV⇒Cと表記することにしたのではないか。逆転させても間違うことはないし、その順序のママで読みたければ、適当に言葉を補えば通用するのが倭語の特徴でもあるから。

--- <賜>用例 ---
-㊤-
天沼矛 而 言依
名號"意富加牟豆美"命
天照大御神 而 詔之汝命者所知高天原矣事依 而
故 各隨依之命
詔然者汝不可住此國乃神"夜良比爾夜良比"
僕之哭伊佐知流之事故
神"夜良比夜良比" 故 以爲請將罷往之状
之汝等者誰
言因而天降也
我御子之
知國言依之國也
天若日子 而 遣
即 天若日子持天神
天之波士弓
於是 高木神告之此矢者
天若日子之矢
葦原中國者我御子之
知國言依
徴來八重事代主神 而
之時
者僕者於百不足八十坰手隱而侍
故 隨
言依降坐 而 知看
汝將知國
言依
之時
於是 副
其"遠岐斯"八尺勾璁鏡及草那藝劔
言状者此鉤者淤"煩"鉤"須須"鉤貧鉤"宇流"鉤云 而 於後手

-㊥-
名號槁根津日子
其弟宇迦斯之獻大饗者悉
其御軍
故 爾 天神御子之命以饗八十建
爾 天皇
之汝者誰子也
天皇之御子
思看者可
於是 天皇
其曙立王謂倭者師木登美豐朝倉曙立王
葦原色許男大神以伊都玖之祝大廷乎

自其餘七十七王者悉別
國國之國造
爾 天皇
小碓命何汝兄久不參出
未經幾時不
軍衆
倭比賣命
草"那藝"劍御嚢
故 建内宿禰爲大臣
大國小國之國造亦國國之堺及大縣小縣之縣主也
吾今歸
其國
次大雀命知天皇
之大御情
即 詔別者大山守命爲山海之政大雀命執食國之政以宇遲能和紀郎子所知天津日繼也
於吾
即 以髮長比賣于其御子
状者天皇聞看豐明之日於髮長比賣令握大御酒柏其太子
如此歌 而 也 故 被其孃子之後太子歌曰
此之御世
海部・・・
亦 貢上横刀及大鏡又科

-㊦-
天皇戀八田若郎女遣御歌
因大后之強不
八田若郎女
自取大御酒柏諸氏氏之女等
爾 大后見知其玉釧不
御酒柏
詔之其王等因无禮 而 退
乃 於其隼人
大臣
於若櫻部臣等
若櫻部 又 比賣陀君等謂比賣陀之君也
天下之八十友緒氏姓也
之女子
即 幸行其若日下部王之許入其犬
故 "都摩杼比"之物云 而 入也
憚其極老不得成婚 而
御歌
天下
名號置目老媼 仍 召入宮内敦廣慈

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