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■■■ 「古事記」解釈 [2023.6.10] ■■■
[714] <na>の俗解
「古事記」の1音漢字の代表は<名>。
"於高天原成神名〜"から始まり、神名一覧や皇統譜記載があるので用例数が圧倒的。これに次ぐのが<子>だが、倍を超えている。名前という意味での用例だけでなく、固有名詞の音仮名としても使われている。(天之眞名井 櫛名田比賣 足名椎 手名椎 日名照額田毘道男伊許知邇神 少名毘古那神 雉名鳴女 建御名方神 畝火山之眞名子谷上 少名日子建猪心命 山代之荏名津比賣 沼名木之入日賣命 沼名木郎女 大名方王 沼名倉太玉敷命)御名代 姓名 氏名という用語も定着していたようで、漢語用法もあったようだ。("名前"は近世に出現した日本語。)

この<>だが、果たしてオリジナル倭語なのか借用語か、大いに気になるところ。

世界を見渡せば、もともとそれぞれ勝手な言い方をしていたように思える。倭語と縁遠そうな言葉だらけのように思えることもあるし。・・・
[倭・日本]na
[中国]míng(名) [吳]min [客家]miàng  ⇒míngzì(名字ミョウジ)
[ベトナム]tên
[韓国]ileum(i.rŭm)
[サモア]igoa [ハワイ]inoa [タヒチ]iʻoa
[モン]npe
[タイ]chùu [ラオ]su [クメール]chhmoh
[タガログ]ngalan [フィリピノ]pangalan
[タミル]Peyar [テルグ]pēru [カンナダ]Hesaru
[アゼルバイジャン]ad
[トルコ]isim
[トルクメン]ady [カザフ・キルギス]atı
[リトアニア]vardas
[マサイ]enkarna
[ハイチ-クレオール]fe-apel
[バスク]izena
[ヘブライ]sham
[古代エジプト]Ren/rn
[ギリシア]ónoma(όνομα)
ヒトのIDとしての人名の意味は、それぞれの社会で扱いが異なるから、本来的にはこうなってもおかしくないと思う。
例えば、儒教帝国では、生まれてもヒトと認知される訳ではなく無IDである。育つ目途が立つと幼名が付くが非公式なもので、宗廟での正式な命名儀式でようやく名が認められる。名前が色々と用意される古代エジプトもある。天皇は名前を明かさなかったようだし、千差万別。それらを一括する概念が存在していなかったら、てんでバラバラになるしかなかろう。

言うまでもなく、上記は名前namaenameネーム@英語という類似性を感じさせる言語例を除いている。この様なことはママあり、偶然でしかないとされている。(民間語源/語源俗解発生の典型例。)しかし、語族が違っても明らかに借用語化されている以上、覇権を受け入れてしまうと、情報共有の鍵である名前を意味する語彙は頻繁に使わざるを得ないから、移入し易いとはいえるのでは。渡来者を大事にする交流重視型社会だったからこその、雑炊言語たる倭語も早くに<な>というグローバル語彙を用いていてもおかしくない気がする。
ギリシア語を含む印欧語族とその周辺も入れ、そこらだけ、一覧にしてみると全く違った風景が見えてくるし。・・・

[倭・日本]na
[ヒッタイト]lāman@主格対格単数 [トカラ]ñom/ñem
[ギリシア]ónoma(όνομα)
[サンスクリット]nā́man [パーリ]nāma [ヒンディー]nām
[ウルドゥー]nām [パンジャブ]Nāma [シンハラ]nama [ベンガル]nāma
[ネパール]Nāma
[ビルマ]narmai(nāmaññʻ) [マレー・インドネシア]nama [スンダ]ngaran
[モンゴル]ner
[ラテン]nōmen [仏]nom [伊・葡]nome [西]nombre [ルーマニア]nume
[古ゲルマン]namon [独・英]name [蘭]naam
[アヴェスタ]nāman- [ペルシア]nāma [ソグド]nām
[ハンガリー]név
[エストニア]nimi
[ブルガリア・マケドニア・スロヴェニア]ime  [ロシア]ímja [ウクライナ]ím'ja [ポーランド]imię

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