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■■■ 「古事記」解釈 [2023.6.22] ■■■
[726] 萬は好字
10,000の漢数字 萬/万をとりあげよう。
---「古事記」用例---
臣安萬侶(x4)@序文
萬物之妖悉發
於是 萬~之聲者狹蠅"那須"滿 萬妖悉發
以萬~蕃息
@序文
八百萬~
(x6)
萬幡豐秋津師比賣命


萬は「説文解字」で蟲の象形とされているが、種名は避けている。誰が見ても明らかなのに。
マン   無名天地之始 有名萬物之母[「老子」]
 ≒さそり@甲骨文字(おそらく魔除け)📖鋏角類
  
 蠆/虿

表立って語らないことになっているが、この蠍文字と仏教の聖なる文字は事実上同一視されている。毒蛇や毒蠍が尊崇対象だった時代があったということだろう。・・・
まんじ
 インド伝説での有コ者表示記号
    ⇔印欧語族に広く伝承する鎮邪の印
 ⇒仏身の聖相(吉祥印…如佛胸前卍字是[「宋高僧傳」]) or
    ヴィシュヌ神の胸の旋毛標章
 ⇒西域聖文字@アルタイ系+チベット・ビルマ系
 ⇒"萬"字(武則天の制定数詞)

萬は万の大字とも言える存在である。・・・
(丆[≒厂]+𠃌[鉤])
  …簡素な記号的文字。おそらく一種の数詞。…10x1,000
 ⇒"萬"字との同一化
萬⇒万 とか、卍⇒万 という省略文字化はおよそ考えられないので、万は数詞として使われており、発音から万⇒萬/卍との推定に説得性が高い。
しかし、それだけではあるまい。
(𠃌[鉤])、即ち蠍が、ウジャウジャと家屋(丆[≒厂])の中に棲息していたとは考えられないから、祭祀用に数千もの大量飼育をしていたことから、その数的表現として生まれた護符記載用の呪語的文字の雰囲気を醸し出しているからだ。(蠍は甲殻類ではないから、殻は食べやすい筈である。餌は昆虫なのでその気になれば無尽蔵。準亜熱帯的な温度が保てさえすれば、大量増殖は極めて容易と思われる。)その様な地域(中華帝国から見れば西域だが)では蠍文様(冒頭カット)が現代でも普通に用いられている筈。ただ、その後、絶対支配宗教で洗われ尽くされている地が多いので、蠍食禁忌化しているからわかりにくい。
・・・と言うか、この辺りは、神話時代の文化を破壊しつくすことから始めることが特徴の、西と東の軍事勢力に挟まれ、徹底的に掃討され尽くしたから、過去の実情はわかる訳がない。

ただ、東アジアの場合、萬文字にその古き時代の息吹を感じたインテリ層も少なくなかったと云えよう。儒教の体制下でその様な風情を醸し出せば抹消の憂き目にあうから、それを示唆する文献が残る訳もないが。
日本国でも、名前の"まろ"は、麻呂/麿を当ててしかるべきと思うが、<ま>としてわざわざ萬を当てるのは、なんとなく、そこらの感覚を覚えた仏教徒の可能性が高い。漢語の萬の音には、倭語では全く発音しない<ん>が含まれており、わざわざその様な文字を使う必然性はないし。
   安萬侶@「古事記」序文 & 墓誌
   安麻呂@「続日本紀」
   安満@「日本紀竟宴和歌」

萬の倭語翻訳語彙はあくまでも<よろづ>。多分、この言葉の意味は、色々と沢山あって<よろし>であり、話語としては重畳語が用いられていたと想像したくなるタイプの語彙。10,000を意味するというと、数量膨大な様と誤解し易いが、本意はとてつもなきバラエティが見てとれて嬉しいという情感を示すもので、蠍が万匹という風景とは異なっていると思う。
例えば、「萬葉」とは、<よろづ言の葉>であり、葉とは聖なる貝葉を示唆しており、それは芽/目-花/鼻-葉/歯という倭人/青草が好んできたバラエティ豊かな植物相を意味していると考えるとよかろう。・・・

---「萬葉集」用例---
≪よろづ≫
万段[#79]萬段[#131/138] 万代[#80/196/478/1114/3224/3329/3907/4266/4267/4274/4275]萬代[#171/199/315/475/480/907/920/921/978/1530/1531/1637]萬世[#423/830/1047]万世[#911/1134/1148/2024/2025/3302/4254]万歳[#3236/3324] 八百萬-千萬神之[#167]千萬[#972]八百萬[#1047]五百万-千万神之[#3227] 万調[#4122]
  余呂豆余尓[#813/873/879]餘呂豆代尓[#3914/3940]余呂豆餘能[#4000]与呂豆余尓[#4003] 与呂頭多妣[#4408]

≪ま≫
伊与余麻須万須[#793] 還来万代:帰り来るまで[#1212] 早還万世:早帰りませ[#1453] 等万里不知母:泊り知らずも[#1732] 千夜毛有十万:千夜もありとも[#2528] 縦毛依十万:よしも寄すとも[#2729] 戀者死十万:恋ひは死ぬとも[#2939] 今不有十万:今ならずとも[#3070] 麻萬能古須氣乃:麻万の小菅の[#3369] 遊布麻夜万:遊布麻山[#3475] 阿米乎万刀能須:雨を待とのす[#3561] 波夜伎万世伎美:早来ませ君[#3682] 安我古非万久波:我が恋ひまくは[#3683] 波也可反里万世:早帰りませ[#3748] 美夜万等之美尓:み山としみに[#3902] 己能夜万夫吉乎:この山吹を[#3976] 祢天蒙許万思乎:寝ても来ましを[#3978] 宇万尓布都麻尓:馬にふつまに[#4081] 安万射可流:天離る[#4082] 久万弖尓:久しきまでに[#4275] 宇万良能宇礼尓:茨(うまら)のうれに[#4352]
 遣之万々:任けのまにまに[#3291]


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