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■■■ 「古事記」解釈 [2023.9.27] ■■■
[818] 太安万侶:「漢倭辞典」前置助詞(上)
漢語に於ける"介詞"は、<介詞+名詞>の形で使われ、<動詞(句)直前の連用修飾名詞句>の役割を果たす。("-的"を句末に付ければ連体修飾名詞句にすることもできる。尚、漢字は品詞を示さないから、可能な用字は無数にある筈。使用状況から見て、動詞の転用が多そう。)
  e.g. 【在+珈琲店】  名詞句   咖啡О
倭語表記に用いるなら、<名詞"句">のコンポーネンツで、<名詞に後置される詞=助詞>に当てることになろう。

これは、<S-О><О-V>型の習慣しかない話語表現に突然<VО>表記を持ち込むのとは訳が違う。
もともと、漢語とは違い語順の自由度が大いにある言語だから、<О-V>表記=<VО>読みであることは明々白々というだけでなく、"そうか、漢語はレ点転倒読みをすればよいのか。"と、"今更ながら"気付くことになる。倭語は構造文型言語ではなく語順自在だから、この手の表記にたいした問題は無い。

しかし、介詞使用となるとそうはいかない。ルビコン川を渡るようなもの。
構造文型言語では無いと言っても、倭文の文章構成には大原則がある。それを揺るがしかねない問題を抱えるからだ。

動詞語の中核は、叙述部たる≪活用語と語尾膠着補助語からなる主述語句≫。<VО>表記に踏み切ったところで、この強固なシステムになんら影響を与えるものではない。
ところが、この【叙述部】以外は、原則的には、すべてが、前置される【名詞句】群。いくつあろうが、どの様な順番だろうが、相互干渉で問題発生さえしなければ話者の勝手気まま。そこらが、話者の情緒を伝える肝でもある。そんな句を認定する言葉の道具が<助詞>。必ず【名詞句】の最後尾に置かれる。
(すでに述べたが、倭語〜日本語では、各句独立ではあるものの、印欧語や漢語の文節概念は使えない。すべての【名詞句】が【叙述部】あるいは他の【名詞句】に直接係るという厳格なルールは存在せず、後続の【名詞句】内の一部語彙に係る表現も可能だから。)
その【名詞句】の性情を示す文法用語として用いられているのが名詞後置の<助詞>。話語では、ここを間違うと会話が成り立たなくなりかねない重要な箇所。にもかかわらず、前置の介詞で代用して表記可能と考えるなら、とんでもない飛躍。

ただ、文法の観点を除けば、文字使用バリア自体は極めて低かった筈。
漢語表記では、名詞・動詞・介詞の区別が全くつかないから、厄介と思われていただろうが、各文字の語義をすべて丸暗記してしまえば(面白覚え方があったろう。)、ここは介詞に違いないとの判定はさほど難しくなさそうだから。
in 离隔・自從(从)・到至from-to 順沿along 往方向・對(対)・給to for towards  比compared to 被動(受身)by 以用with using 為替for 等々・・・

しかしながら、いくら漢文での馴染み文字であっても、語彙順番が異なる倭語表記で助詞に登用することになると、紛らわしさを払拭する仕掛けが欲しいところ。
【名詞句】末を示す"置き字"程度は欲しいところ。それでも、名詞の頭に付ける介詞は誤解を生じ易いから、その恐れある介詞は使わないにこしたことはなかろう。
  e.g.【朝+[方向/場所の名詞]_非使用
  ≪朝morning_12 寢朝床 朝日 朝夕 朝參 朝廷 etc.
  對/対むかひ+立つ__3 其石置中各對立而 而對立相挑故 故逃退逢坂對立亦
そう簡単に運べるとは思えないものの。
≪于≫_50
  [訓]ここ-に おい-て よ-り いは-く ゆ-く ああ を に
  ≪對于/対于・関于・由于≫_非使用
  ≪至于≫_12
≪至≫_56
  [訓]いた-る
≪於≫371(__4)
  [訓]おい-て/お-ける より ああ
≪従/從≫_25  ≪从≫_非使用
  [訓]したが-う/したが-える
≪自≫209(__4)
  [訓]みずか-ら/おの-ずから より

語彙探索はこの辺りでご勘弁。

】用法分類は普通9区分らしい。:時間・方式・目的・原因・対象・排除・被動・比較・身分(細かくは、[動作・行為がなされる場所・時間][起点][空間的・時間的距離][方向・目標][経路][仲間・相手][動作・行為の受け手・相手][動作・行為の対象][動作の範囲][行為者][比較][準拠][よりどころ・方式][原因][目的][過程・手段]@「中日辞典」)…由来情報を欠くので雑多な印象は否めない。

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