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■■■ 「古事記」解釈 [2022.10.23] ■■■
[歌鑑賞21]狭井川よ雲立ち渡り
【伊須氣余理比賣】御子に危機迫る
佐韋賀波用さゐかはよ 久毛多知和多理くもたちわたり 宇泥備夜麻うねびやま 許能波佐夜藝奴このはさやぎぬ 加是布加牟登須かぜふかむとす
㊄(5-7)-(5-7)-7

    故 天皇崩後
    其庶兄當藝志美美命 娶其嫡后伊須氣余理比賣之時
    將殺其三弟 而 謀之間
    其御祖伊須氣余理比賣患苦 而 以歌
    令知其御子等 歌曰

狭井川よ  狹井河の方より
雲立ち渡り  雲が立ち昇って来て
畝傍山  畝傍山では
木の葉騒ぎぬ  木々の葉が騒いでいますから
風吹かむとす  (やがて)風が吹いてきますよ

嫡后伊須氣余理比賣の実家は狭井川、一方、天皇の座する地は畝傍山山麓。
狭井川の皇子達が治める時が来た瑞兆が見え始めた一方で、畝傍山では雲を追い払うための風が吹きそうな気配ありという歌なのだろう。
少なくとも、異変発生の予兆ありとのお告げ的な歌であることは、説明が無くとも想像がつきそうな組み立て方だ。

長兄たる、母親が妾の皇子が皇位継承を狙っているのは、天皇崩御で嫡后を娶ったのだから、明々白々であるし。当然ながら、次のステップとして嫡后の3皇子殺害を図ることになろう。
・・・これは、当たり前の話。
即位前日向時代の皇子 多芸志美美命が、天皇崩御後に嫡后 富登多多良伊須須岐比売を娶るという状況なのだから。伊須須岐比売の3御子を亡き者にすれば、自動的に皇位継承者は決まりなのだから。そもそも、この長兄に実力があるので、その庇護下に置かれた訳で、いわば長兄による皇位奪取の規定路線。
女系末子相続の風土とすれば、幼い後継者候補を大事に育てあげ、臣下統率に適した年齢まで力を蓄えさせる必要がある。長期間要することもあり、つなぎ的な仮王権が生まれることもあろう。その場合は、流れから見て、長兄あるいは皇后が握ることになろう。ただ、あくまでも過渡期なので、正式即位迄、朝廷は政治力学に翻弄されておかしくない。
従って、この歌は、いよいよ御子に即位のチャンスが巡って来たとの、巫女でもある皇后のお告げの言葉と考えることもできよう。もちろん、それは皇子達に暗殺の危険性が迫っているとの警告と同義である。

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