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■■■ 「古事記」解釈 [2022.11.24] ■■■
[歌鑑賞52]千早人宇遅の済に渡り瀬に
【宇遅能和紀郎子】反逆者大山守命討伐成功時
知波夜比登ちはやひと  宇遲能和多理邇うぢのわたりに 和多理是邇わたりせに 多弖流たてる 阿豆佐由美あづさゆみ 麻由美まゆみ 伊岐良牟登いきらむと 許許呂波母閇杼こころはもへと 伊斗良牟登いとろむと 許許呂波母閇杼こころはもへと 母登幣波もとへは 岐美袁淤母比傳きみををもひて 須惠幣波すゑへは 伊毛袁淤母比傳いもををもひて 伊良那祁久いらなけく 曾許爾淤母比傳そこにをもひて 加那志祁久かなしけく 許許爾淤母比傳ここにをもひて 伊岐良受曾久流いきらずそくる 阿豆佐由美あづさゆみ 麻由美まゆみ
㉑(5-7)-(5-3-[5-3])-(5-7)-(5-7)-(4-7)-(4-7)-(5-7)-(5-7)-7-[5-3]

    爾 掛出其骨之時
    弟王歌曰

千早人  急流をものともしない人は
宇遅の済に  宇治の渡しの
渡り瀬に  急流の渡し場に
立てる  立っている
梓弓  梓弓(の木)と
真弓  真弓(の木)を
い伐らむと  伐採しようと
心は思へど  心では思うものの
い獲らむと  斬り獲ってしまおうと
心は思へど  心では思うものの
本方は  元の方では
君を思ひ出  君を思い出し
末方は  末の方では
妹を思ひ出  妻を思い出す
楚なけく  気分がのらず
其処に思ひ出  ここで思い出してしまう
悲しけく  悲しくなって
此処に思ひ出  ここで思い出してしまう
い伐らずそ来る  (だから)伐採しないで来たのだ
梓弓  梓弓(の木)
真弓  真弓(の木)

皇統譜上、大山守命の母系は天皇の血脈であるから、母系が和邇である宇遅能和紀郎子とは格段の差がある。ただ、単なる和邇の娘ではなく、宮主との称号が付いているので、特別扱いしてはいるものの、地位を変えるようなインパクトがあるとは思えない。
そのことが敬称での、命と郎子の差になって表れていると思うが、結局のところ、天皇は末子継承と決断した。その理由は寵愛とされている。

しかし、皇嗣となった宇遅能和紀郎子がそれをどう受け止めたのかは不明。

この歌は主旨が見えてこないが、攻撃をかわして完璧な勝利を実現したのに、歓びとは程遠い内容となっている。
このことは、臣下の大勢が支持してくれるなら皇位を継承してもよいが、長兄支持者が多いなら皇位を譲ってもよいと考えていたのと違うか。

前歌は、楫取り者に変装した宇遅能和紀郎子に宇治川に落とされた大山守命が詠んでいる訳だが、双方に犠牲が膨らむ大合戦を避けることに知力を傾注する姿勢と云えないことも無い。軍勢で備えたにもかかわらず、戦意高揚とは正反対の動きなのだから。

この歌では、梓弓・真弓の意味がわかりにくいが、木の伐採は縁切りを意味しているとしか思えず、おそらくここでの弓とは、離れていても情愛を通じるお守りのようなものだろう。宇遅能和紀郎子は、攻撃されたので対応して勝利はしたものの、心はかえって乱れてしまったのだろう。
急流に落ちた大山守命は、船に引き上げてくれる楫取りも出ず、岸には矢が飛ぶ状態になってしまい近寄れないから、ついに【訶和羅】で溺死してしまった。その遺骸を見て、動揺してしまったことになる。

結果、敗残敵対者の、反逆者扱いを避けたようである。
    故 其大山守命之骨者 葬于那良山也
その辺りの"思い"をやんわりと伝えている歌なのだろう。

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