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■■■ 「古事記」解釈 [2023.3.6] ■■■
[歌の意味39]歌垣的自由恋愛あってこその天皇
「記紀」歌の比較を続けているが、逆説的に、「だからこそ「記紀」読みをすべきでない。」という主張がお分かりになれただろうか。
国史がわざわざ取り上げている歌の意味を考えれば、両者の違いも自ずとわかろうというもの。
国史に収載されなかった歌についても順次見ておこう。…📖非収載の国史挿入歌一瞥 表示歌
最初の<上巻@出雲>[2 3 4 5 6]は既に検討した。📖歌の始原は出雲
次が《中巻初代天皇段》。
<即位後の皇后探し>…5首
[16]大和の高佐士野を七行く乙女ども誰をし枕かむ
[17]且々もいや前立てる姉をし枕かむ
[18]胡鷰子鶺鴒千鳥ま鵐何故黥ける利目
[19]乙女に直に逢はむと吾が黥ける利目
[20]葦原の穢しき小屋に菅畳いやさや敷きて吾が二人寝し

国史である以上、初の皇后立位は威厳ある形で描くことになろう。
  庚申年秋八月癸丑朔戊辰 天皇當立正妃
  ・・・九月壬午朔乙巳 納媛蹈韛五十鈴媛命 以爲正妃

皇后の要件が記載されている。
  改廣求華胄 …華胄:身分の尊い家柄
「古事記」同様に事が進んだような文章だが、候補選定に絡んだ人物については触れないことに決定したようだ。
入墨鯨面のいかにも南島をルーツとした漁労民風情が取り仕切ったというのでは品位が損なわれると考えたのだろう。
(唐では刺青人は迫害の対象で、すでに反体制風来坊のイメージがあったようだ。「酉陽雑俎」著者は高級官僚だが、一章を割いて、入墨の美しさや、当該人物の面白さをファクトとして記載している。)
  時有人奏之曰:・・・
言うまでも無いが、皇后の系譜についても、当たり障りのない書き方。
  "事代主神 共三嶋溝橛耳神之女玉櫛媛 所生兒
   號曰 媛蹈韛五十鈴媛命
   是 国色之秀者"

ただ、儒教国家と違い、宗族繁栄のための婚姻ではなく、歌垣感覚の本質である男女恋愛であることをほのめかす文言を挿入している。
  天皇ス之
この箇所は、よく考えられて書かれている。
<国色>と政治色が強い文字を用いているものの、<顔>のことで、天皇お気に入りのお嬢さんであることを示唆している。しかも、臣下が政治状況を見て候補者選定風になってはいるものの、検討開始からものの僅か一か月強で正式婚姻成立。そこから経緯を想像せよということだろう。
日付にしても、現代人からしても、歌垣色濃い盆踊りで見初めてすぐに睦み合ったと解釈されるようになっている訳だし。もちろん、律令国家では、たとえそうであっても表立って云うのは憚れるのは当たり前。

伊須気余理比売命入宮の際の御製くらいは国史に収録してもよさそうに思うが、地名が入っていないから、山ノ辺の道辺りでの婚姻習慣と思われる内容を詠んでいる風情が濃厚で、穢しき小屋に菅畳を敷いての初夜の歌は宮廷歌にふさわしくないと判断したのだろう。

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