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■■■ 「古事記」解釈 [2023.3.9] ■■■
[歌の意味42]沸き立つ品陀和気命の宮
国史に収載されなかった歌についての続き。…📖非収載の国史挿入歌一瞥 表示歌

   《中巻15代天皇段》…14首(#39〜52)
<反逆すれど敗退した忍熊王 琵琶湖で最期>…1首
<天皇凱旋で母・臣が寿ぐ>…2首
<国見寿ぎ>…1首
<妃獲得の喜びを宴席で表明>…1首
[43]この蟹やいづくの蟹百伝ふ角鹿の蟹横去らふいづくに至る伊知遅島美島に著き鳰鳥の潜き息衝き階だゆふ佐佐那美道をすくすくと我が行ませばや木幡の道に遇はしし嬢子後方は小蓼ろかも歯並は椎菱なす櫟井の丸邇坂の土を初土は膚赤らけみ底土はに黒き故三栗のその中つ土を頭著く真火には当てず眉画き濃に書き垂れ遇はしし女かもがと我が見し児らかくもがと我が見し児に現たけだに向かひ居るかもい副ひ居るかも
大御酒盞を宮主 矢河枝比売に取らせながらの歌。そして、歌の次が"御合"となる。
国史では、系譜に菟道稚郎子皇子の母として記載されているから、和珥臣祖日觸使主の娘 宮主宅媛に当たるが、それ以上は何も書かれていない。そうした扱いである以上、婚姻譚であるこの歌が掲載されることは無い。
要するに、国史プロジェクトからすれば、和珥氏が一族の巫女を天皇の妃として献上することで服属が記載されたことで十分なのだろう。「古事記」としては、古からの婚姻のパターン巡行と婚姻が持続していることを示したいから、この長歌を核とするストーリーをなんとしても収録したかったのだろう。皇子は天皇の寵愛を受けて太子扱いになったが、それは妃への愛の反映でもあろう。さらには、皇子にインターナショナルなセンスと教養を身に着けさせ、そのような方向へと梶を切ろうとする天皇の意思決定に応えられる人材だったことも大きいだろう。
ともあれ、この歌の根底には、得難い女性を妃として獲得できた喜びがあり、叙事として第一級品ということ。国史プロジェクトでは、そのような観点で眺めることはなかろう。

従って、忘れてならないのは、この歌こそが口誦叙事に於ける、いわば挽歌である点。(下巻は本格的な文字読み作品への橋渡し的な歌物語になるからだ。)
この歌を単独歌と見なし、詞を目で読んだところで、たとえ題詞があったところで、なにがなんだかわかるまい。かなり長い地文の背景説明なかりせば、用いられている言葉そのものの意味さえ見えてこないからだ。だからこその口誦叙事なのである。自動的に頭で考えることになる文字読み歌とは似ても似つかぬ作品。
婚姻の宴会で、歓喜の歌を、伴の者の舞踏や奏楽に合わせて歌われる情景を思い浮かべることができないと、この歌は出鱈目な内容にしか映らない。要するに、寄集めの雑炊的な構成なのだ。しかし、だからこそ、歌謡を聴く側にその心情がしみじみと伝わってくる手のもの。天皇が、原体験を、皆が聞き慣れたフレーズを用いて順々に吐露することで、恋心を表明しているからだ。技巧や装飾ではなく、生の言葉の迫力で婚約成立の歓びを描き切ったことになる。
これこそ、倭歌"創作"の原点。

<皇子に呼び寄せた女を譲り渡す>…4首
<吉野勢力が皇子褒め>…2首
[48]品陀の日の御子大雀大雀佩かせる太刀本剣末ふゆ冬木の素幹が下木のさやさや
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[49]檮の生に横臼を作り横臼に醸みし大御酒美らに聞こし以ち飮せ麻呂が父
[39]橿の生に横臼を造り横臼に醸める大御酒美らに聞し以ち食せ麻呂が父
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すでに書いたことだが、吉野勢力の武力に関する話題は、朝廷の高級官僚は避けていたと見る。律令国家組織に属さず、天皇あるいはその可能性が高い皇子への絶対忠誠を誓う私兵(非傭兵)とみるからだ。軍事氏族とは全く性格が異なり、朝廷組織に関係することはなく、天皇を"麻呂が父"と呼べるのである。
そのため、国史に収録された[39]歌はどの天皇に対する献酒であってもおかしくない。太安万侶は、大雀命の代での武力的褒め歌と一緒に収録しているが、どの天皇でもありえよう。

<渡来製造法の酒に酔う>…1首
[50]すすこりが醸みし御酒に我酔ひにけり事無奇酒笑奇酒に我酔ひにけり
<崩御後の皇位争奪闘争>…2首
「古事記」のトーンは渡来系の技術者重用の一環。
  和邇吉師…文首(論語 千字文)
  卓素…手人韓鍛
  西素…呉服
  仁番/須須許理…秦造/漢直 酒醸造

太安万侶は、新しい文化の素晴らしさに酔い、大いに嬉しがり盛り上がっている姿を描こうということだろう。吉野の酒に続けることで、宮廷が沸き立って、繁栄している様を描いているともいえよう。

一方、国史プロジェクトは渡来技術はあくまでも大陸側からの朝貢としての扱い。意味の薄い歌となろう。伝統の~酒ではないのだから。・・・
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[40]此の御酒は吾が御酒ならず御酒[奇]の司常世に坐す石立たす
 少名御神の神祝き寿き狂ほし豊寿き寿き廻ほし奉り来し御酒そ浅ず飲せささ
[32]此の御酒は我が御酒ならず~酒の~常世に坐すいはたたす
 少御~の豐壽ぎ壽ぎもとほし豐壽ぎ壽ぎくるほし祭り來し怨酒ぞ乾さず飮せささ
[41]この神酒を醸みけむ人はその鼓臼に立てて歌ひつつ醸みけれかも
 舞ひつつ醸みけれかもこの御酒の御酒のあやに歌愉しささ
[33]此の御酒を醸みけむ人は其の鼓臼に立てて𣤒ひつつ醸みけめかも
 此の御酒のあやにうた樂しささ
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