→INDEX

■■■ 「古事記」解釈 [2023.3.13] ■■■
[歌の意味46]性情嫌われるも御製は絶品
国史に収載されなかった歌についての続き。…📖非収載の国史挿入歌一瞥 表示歌

   《下巻21代天皇段》…14首(#91〜104)
この段の検討は相当に骨。
政治的観点での言及は避け口誦叙事文字表記化に徹するといっても、雄略天皇の場合は、暴虐イメージ(残忍な方法での皇嗣候補者皆殺しを行っているし、気に障れば暴力的になる性情であるように映る。)があり、そこらをどう扱うか考慮せざるを得ず、それがどの様に記載に影響を与えているのか、すぐに読み取れないからである。
しかも、どうも童女好みらしく、恋路の記載も少なくないので、そこらの扱いも厄介だろう。

但し、その暴虐性は、中央集権国家樹立に向けた意図的なものと言うこともできるので、そこらをどう評価するか難しいところがあろう。

従って、以下の、最初の歌からして、背景を考えると、どう捉えるかはそう簡単ではない。
宮廷が遵守させてきた慣習を破る家を見つけ即座に燃やせと命ずるから、現代人の多くはなんとご無体なと感じてしまうだろう。しかし、ヒエラルキーを保つことが社会にとって何よりも重要と考える時代に入っているとしたら、この裁断に対して、多くの朝廷人は拍手喝采し、素晴らしい事績として伝承すべしとの態度で臨んだのかも知れない。だからこそ伝承譚に。(天皇と並ぶというか、実態的には大和地区の支配者然としていた勢力をついに服属させたという点では画期的。)
もし、このような状況とすれば、「古事記」と国史では執筆目的が異なるから、重複歌は自ずから僅少にならざるを得まい。

それに、太安万侶は、天皇が暴虐か否かとか、聖帝かどうかという点に余りかかわりたくもなかろう。関心があるのは、その天皇が絡む伝承歌謡がどれほど存在しているかという点と、宮廷歌謡としての定着度の方では。

<睦み合いたと直接的に心情吐露>…1首
[91]日下辺の此方の山と畳薦平群の山の此方ごちの山の峡に立ち栄ゆる葉広熊樫本にはい組み竹生ひ末方にはた繁竹生ひい組み竹い組み宿ずた繁竹確には率宿ず後も組み宿む其の思ひ妻憐れ
上記と全く違うことを書いておこう。
実は、この歌の中味の解釈などどうでもよい。評価すべきは、音韻とリズム。口誦叙事として素晴らしい出来だからだ。
言うまでもないが、国史チームメンバーはたとえそう感じたところで、そのような観点で議論することはない。

<睦み合う約束忘却の彼方 そこに老婆突然訪問>…4首
[92]三諸の厳橿が本厳橿が本橿が本由々しきかも白檮の木の元乙女
[93]引田の若栗栖原若くへに率寝て坐しもの老いにけるかも
[94]見諸に築くや玉垣築き余し誰にかも依らむ神の宮人
[95]日下江の入り江の蓮花蓮身の盛り人乏しきろかも
これぞ、口誦叙事のエンタテイメント性を見事に描き切った歌といえよう。聴衆大笑いでは。笑い迄も管理統制したい儒教思想とは全く相いれない。
そもそも、儒教からすれば、婚姻は宗族繁栄のための最重要行事であり、気安く睦み合いたいなどもってのほか。従って、中央集権を目指す天皇であるものの、儒教的管理など真っ平ご免姿勢が描かれているとも言える。

(吉野童女)…1首
[96]胡坐居の神の御手もち弾く琴に舞する嬢子常世にもかも
この天皇代は安定した社会だったことを象徴するような歌。と云うか、暴虐性と正反対の性情の天皇に映る姿。
太安万侶好みの"美しさ"が詠われているのかも。

(秋津洲)…1首
<木に登って一言主からの難を脱した>…1首

(臣の少女)…1首
[99]少女のい隠る丘を金鋤も五百箇もがも鋤き撥るもの
歌垣儀式の相思相愛確認後、女が逃げ隠れ、男が追い捕まえて、御合へとの儀式次第に則っており、そのいくつかのパターンに当たる歌だろう。
これ以後、天皇の恋愛も律令国家安寧方針に縛られるようになり、歌垣的婚姻は急速に廃れて行き、こうした歌が独立して婚姻宴会で唄われるようになるのでは。

<㉑天皇@新嘗祭、酒宴粗相し斬殺寸前の采女、皇后、妃による寿ぎ>(天語歌@新嘗)…3首
[100]纏向の日代の宮は朝日の日照る宮夕日の日翔ける宮竹の根の根足る宮木の根の根延ふ宮八百によし斎の宮  真木さく日の御門  新嘗屋に生ひ立てる百足る槻が枝は上枝は天を覆へり中枝は吾妻を覆へり下枝は鄙を覆へり上枝の枝の裏葉は中枝に落ち触らばへ中枝の枝の裏葉は下つ枝に落ち触らばへ下枝の枝の裏葉は  あり衣の三重の子が捧がせる瑞玉盞に  素晴らしい玉の盃に浮きし脂落ち足沾ひ水こをろこをろに来しも綾に恐し高光る日の御子  事の語り事も此をば
[101]倭の此の高市に小高る市の司新嘗屋に覆ひ樹てる葉広斎つ真椿其が葉の広り座し其の花の照り座す高光る日の皇子に豐御酒奉らせ  事の語り事も此をば
[102]百礒城の大宮人は鶉鳥領巾取り懸けて鶺鴒尾行き和へ庭雀髻華住まり居て今日もかも酒御付くらし高光る日の宮人  事の語り事も此をば

以下の2首は国史には不向き。
続(臣の少女@豊楽)…2首
[103宇岐歌 御製]水注く臣の少女秀樽取らすも秀樽取り堅く取らせ下堅く弥堅く取らせ秀樽取らす子
[104志都歌 袁杼比賣獻歌]八隅知し我が大王の朝処にはい拠り立たし夕処にはい拠り立たす脇几が下の板にもが吾兄を

 (C) 2023 RandDManagement.com  →HOME