↑ トップ頁へ

2001.6.1
 
 


「ハコモノ」つくりの科学技術振興政策…

 日本の政策の特徴は「ハコモノ」つくりだと批判する人が多い。
 しかし、いくらなんでも、科学技術振興だけは「ハコモノ」つくり政策などあり得まい、と考えだろう。ところが、本音で語る研究者・エンジニアは、科学技術振興分野こそ「ハコモノ」政策の典型だと主張する。

 ベンチャー・ビジネス・ラボラトリーを訪ねれば、おそらくりっぱな新設ビルディングを見せてくれる筈だ。大学が産業と係わるための重要な接点であり、新産業創出の中核を担うため新しく編成された組織だ。重点分野には、まず「ハコモノ」があてがわれるのが日本の政策の通例だという。

 先端を走るゲノム分野でも同じ指摘をする研究者がいる。
 蛋白質分析重視政策が打ち出されたが、この目玉は分析センターの建設だ。世界に冠たる大規模・最先端施設が完成した。施設完成で「大成功」が約束されたかのようだ。威勢の良い発言さえとびかう。誰でも、研究者は意気軒昂との印象を受ける。
 しかし、じっくり話してみると、研究者の本音はかなり違う。
 そもそも、こうした動きに至るまでが難関である。予算をつけるまでが一苦労。皆で集まり、延々と議論する必要がある。先進例の徹底調査要求の声もあがる。そして、ようやく結論がでる。予算決定の次に、お定まりの多大な時間を要するプロセスが控えている。計画通りの予算消化と人事決定だ。さらに、決定してから施設が完成するまでに最低2年はかかる。
 実際に始まるまでに多大な労力と時間がかかるのである。これに、疲労感を覚える研究者・エンジニアは多い。従って、こうした動きに対応し易いギルド的組織だけが一生懸命推進し「成果」をあげることになる。

 このように長時間かつ多大労力が必要な「ハコモノ」つくりが主導する体制のままで、日本の科学技術振興策から成果が期待通りあがるだろうか?
 そもそも、ゲノム分野やテックベンチャーといったハイスピードで変化する分野で、スタートまでの準備に長期間かかることに問題意識を持たないのが不思議だ。ベンチャーを進めたいなら、場所などどこでもよいからすぐに始めたいと考える方が普通ではないだろうか。空いたビルや、倉庫を改造して、すぐ進めようとの気迫はない。---といった精神論批判はよそう。
 本質的な問題は計画経済型の運営である。一旦計画が動き始めたら、変更できない仕組みである。新しい仕組みに切りかえるとか、方針変更の柔軟性に欠けるのだ。後追いなら奏功するだろうが、「創造」型の仕事でも事実上中央集権型組織なのだ。新しい潮流が登場しても方針変更はできない仕組みで研究開発や事業家開発を推進したら、成功する確率は低くならざるを得まい。


 苦笑いの目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2004 RandDManagement.com