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2003.3.2
 
 


「真面目」なトップ…

 低迷企業の開発部門を訪問した。

 この企業では、トップが、開発部門に対し「マーケット・インの徹底」を語り続けている。ところが、現場はこの言葉に飽き飽きしている。
 当然、現場の雰囲気は悪い。トップへの信頼感は皆無だ。「マーケット・インの徹底」方針への反撥も極めて強い。・・・「顧客ニーズに対応しない開発などある訳ないでしょう。」、「市場の声を聞けば、潜在ニーズがわかると思っているのかネ。」といった、トップの発言を揶揄した会話ばかりだ。「いい加減にしろ」とのトップ批判も聞こえてくる。
 トップとの一体感は全く無い。しかも、優秀なエンジニアほど、こうした態度が目立つ。

 どう見ても、原因はトップの方にありそうだ。しかし、社内外で、真面目で、信用できる、と評価されている人で、人格に問題があるとは思えない。
 そこで、理由を色々とたずねて見た。

 すぐにわかったのが、感覚のずれである。開発部門では、「真面目」で「信用できる」経営者は退け、という思考が蔓延しているのだ。
 この言葉だけを聞くと驚くが、内容は単純である。新しい動きに慎重で、業界横並びを重視するような経営者の下で働きたくない、と叫んでいるだけだ。

 「マーケット・インの徹底」方針は、他社の物真似と見なされている。しかも、何度も繰り返す姿勢も、経営の教科書に従っただけ、と受けとめられている。このため、開発部隊に対するトップの講話は、誰もまともに聞いていない。

 特に不評をかっているのが、トップが考える「人間的な経営」思想だ。エンジニア達が、すでに、反「人間的な経営」主義に変わっていることを、トップは理解していないようだ。
 このため「個人個人が自立し、自己差別化できる能力を持ち、皆と協調して活動するように」とのトップの発言も、ほとんどのエンジニアは冷笑して聞いている状態だ。
 これでは、開発部門に生気が欠けるのも当然と思われる。

 要するに、「人間的な経営」といっても、実態は単なる温情主義にすぎない、という認識が広まってしまったのだ。温情主義は、能力の無い人はのんびりできて楽だが、成果をあげている人にとっては非合理的、冷酷、無視、の仕組みである。エンジニア達は、このような経営を続けるトップマネジメントを、苦々しく眺めているのだ。

 実際、この企業では、収益に大きく貢献しても処遇はほとんど変わらない。休み無く働いて、成果をあげた結果が、「皆で、居酒屋で一杯やったら、報奨金は消えました」という程度だ。

 エンジニアに対して「自立、自己差別化、協調」を語るトップには、こうした現場感覚はわからないようだ。
 現場では、「当社のトップは、自立/自己差別化/協調と、自律/専門スキル獲得/チーム・ビルディングの差が理解できない」と語られている。

 しかし、この企業には、こうした現場の声に応えられそうな経営幹部は見当たらない。


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