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2003.4.12
 
 


知的財産で戦う…

 「知的財産で戦う」とのスローガンが日本企業内で氾濫している。

 スローガン自体は結構な話だから、この動きを喜んでいる経営幹部が多い。
 しかし、副作用に気付かないと、地位没落に繋がりかねない。

 大半の研究者/エンジニアは、「戦う」方針を示されると、自らの持てる力を振り絞って競合と徹底的に戦うべき、と理解する。特許で地位を固めるべく、必死に動く。
 世界制覇の気概を持つこともあるから、プラスに働けば、成果があがることもある。

 しかし、トップレベルとはいえない分野では、こうした方針を徹底したところで、自社が優位に立てる特許が生まれることは稀だ。基本的には、たいした成果はあがらない。
 といっても、交渉力に寄与できる特許創出に成功することもあるから、それなりの見返りはある。

 そのため、「知的財産で戦う」方針の徹底こそ、日本企業の生きる道、と考える経営幹部が多い。

 一見、妥当に見える方針だが、実態を見ると、リスクの高い路線を選択しているようだ。
 「戦う」方針は、戦闘意欲を高めすぎることが多い。その結果、どんな場合でも、戦いを挑みかねない体質になっている。ところが、経営幹部は、この副作用に気付いていないのである。

 最たる副作用は、戦略性を欠いたままの、技術紛争への突入である。特許侵害等の問題が発生すると、「戦う」方針ということで、妥協なき戦いを挑みがちになる。技術レベルで上位にある訳でもないのに、このような動きを進めてしまうと、デメリットが増える。デメリットを考えると妥協した方がよさそうでも、技術部隊は知的財産防衛のために必死になって立ちあがったりする。意気は買うが、ビジネスとしては稚拙な動きである。

 サムスンのDRAM分野で見せた動きを思い出せば、妥協の価値がいかに高いものか、わかる筈だ。
 2000年に、ラムバスが、自社知的所有権に抵触すると指摘し、DRAMメーカーにロイヤリティの支払いを要求した。どう見ても、画期的な技術と言えそうにないし、オリジナリティにも疑問を感じるような類の知的所有権である。
 当然ながら、DRAM大手企業は、この特許を認めず、訴訟に突入した。一方、サムスンはロイヤリティの支払に応じた。
 当時、業界関係者は、サムスンは5%以上の高額な支払いに応じた筈、と推定した。そのような支払いは、首を締めるだけ、と語る人もいた。
 このような業界環境で、サムスンは高度な意思決定を行った訳だ。その結果、DRAMで圧倒的な地位を確立した。・・・これこそ「知的財産で戦う」姿である。

 多くの日本企業の「知的財産で戦う」方針は、このような妥協イメージを欠いている。他社の所有権をどのように取り扱うべきかを考えなければ、実践的な動きは生まれない。


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