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2003.5.24
 
 


人材流出の兆し…

 コンピュータ業界の中堅研究者/エンジニアの転職は昔から盛んである。日本でも、この分野だけは例外的に人的流動性が確保されていた。
 これは、この分野の企業の労務政策が先進的だったいう訳ではなく、コンピュータのダウンサイジングに伴い、人の移動が避けられなかっただけの話しである。

 一方、同じIT業界でも、エレクトロニクスデバイスや周辺機器分野では、人的流動性は進まなかった。
 これらの分野では、新興勢力は伸張したが、既存勢力が互角に戦っていたため、既存勢力から新興勢力に移動することが、利敵行為と見なされた。そのため、転職は、同僚や友人との「縁切り」になりかねず、なかなか踏み込めなかったといえよう。しかも、コンピュータ分野と違い、職場が海外だから、転職の動きに繋がりにくかった。

 ところが、21世紀に入り、既存勢力が急速に弱体したため、状況が大きく変わり始めている。
 韓国やシリコンバレーへの転職が始まったのである。といっても、注目を集めるような数になった訳ではない。
 転職者に対する周囲の対応という点で、大きく変わったのだ。
 今までの「縁切り」型の姿勢が消滅したのである。かつての同僚が、海外出張のついでに転職者のところに公然と立ち寄るようになった。
 当然のことだが、彼等はビジネスの話しをするため立ち寄った訳ではない。彼等も実は転職予備群なのである。

 といっても、沈みかけた泥船からの脱出を図る人が増えていると見るべきではない。どちらかと言えば、彼等は、船をなんとかして立て直そうと奮闘中であり、企業内でも優秀と見なされている人達だからだ。
 つまり、エレクトロニクスデバイスや周辺機器分野で、人材の国際流動化が公認されたのである。

 今までの海外転職者は、実力があっても、社内組織では自分の場を構築でき無い人が多かった。このようなタイプは、海外に出ない限り力は発揮できなかった。
 ところが、最近の海外転職者と転職者予備群は、こうしたタイプには全く当てはまらない。日本企業内で力を発揮している人達なのだ。ついに研究者・エンジニアの主流が、海外移転を職業選択肢の一つとして真面目に考え始めたのである。

 こうなった理由ははっきりしている。
 国内では、いまもって転職のチャンスは少ない。にもかかわらず、企業間での組織統合や、業務の他社移管が始まったのである。研究者・エンジニアにとって、こうした動きは、自らの意志と無関係な転職に他ならない。同業他社からの人材受け入れを例外扱いにしているのに、実際は大規模な転職が行われていることになる。自らの意志による転職が始まるのは当然の流れだ。
 そして、海外だけが、こうした転職要求に応えているという訳だ。

 人材流動性の実現は日本の産業再生には不可欠だが、優秀な人材が海外流出するような流動化では、日本の競争力は急低下しかねない。・・・「モタモタしていると大変なことになる。」と酒席で語る技術マネジメントが多い。
 ところが、こうした危機感は口先だけのようだ。保守的な人事部門の意識を変え、オープンな採用方針を取り入れる動きは今もって始まらないからだ。というより、実際の行動から見ていると、海外移転組みとできる限り仲良くして、海外の状況把握に力を入れている。海外転職を支援しているようにしか見えない。

 国内での人材流動化実現に向け動くのはどうせ少数派だから、無駄な努力はよそう、と言うことなのである。その結果どうなるかは知りながら、動かない。


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