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2003.6.29
 
 


産業クラスター化の調査研究…

 産業のクラスター化に関する調査研究をするから、知っていることを話せ、とお呼びがかかったビジネスマンの話をきいた。

 勃興しているワシントン州の技術と産業集積状況を政策の観点から調べたいので協力せい、と言われたそうだ。
 そこで、シアトルは綺麗な街で気候もよいから観光旅行に最高、と言ったら、ひどく嫌われたという。皮肉がきつすぎたようである。

 ビジネスマンの気持ちはよくわかる。
 ワシントン州のバイオ産業をいくら調べたところで、日本での地域開発の参考になる筈がないからだ。

 そもそも、日米では、バイオ予算の規模が違う。
 HIHの予算が毎年大きく増えていた時代が終わり、今やインフレーション率より僅か上程度の上昇に留まった、といっても、2003年度の予算は279億ドルである。この予算がワシントン大などに流れ込んでくる。(http://www.aaas.org/spp/rd/nih04p.pdf)
 このベースの上に旺盛な研究開発活動が成り立っているのである。

 この地域で有名なPacific Northwest National Laboratoryも巨大である。バイオをどの程度担当しているのか調べたことはないが、全体でみれば、博士が3,000人以上働いているだろう。歴史的な繋がり上、DoEの資金が大量に流れ込んでいる筈である。

 ビル・ゲイツの寄付で、ゲノム・シークエンサー開発の著名人を引っ張ってきた、という話しは有名だが、象徴的なもので、このような動きは本質ではない。又、バイオ領域は、ベンチャーキャピタルからの資金流入が目立つといっても、2002年では47億ドルに過ぎない。全体を支える規模には程遠い。(PriceWaterhouseCoopersの調査http://www.ventureeconomics.com/vec/news_ve/2003VEpress/VEpress01_28_03.pdf)

 要するに、この地域の特徴を一言で言えば、「巨額な国研予算の流入」である。

 従って、ここを新興バイオ地域と考える発想自体がおかしい。

 最近の発展が急なため、歴史を無視しがちだが、もともと科学に貢献してきた土地柄なのである。例えば、炭疽菌対策で有名になったワクチン企業Hollister-Steirは、設立が1921年である。(1999年までは独バイエル傘下 http://www.hollister-stier.com/about_us.asp)
 バイオ産業の発祥元となったと思われるHutchinson Cancer Research Centerにしても、米国に散らばる癌研機関の1つにすぎないが、その設立は1972年である。(http://www.fhcrc.org/)
 最近、Amgenに買収されたImmunexも、ベンチャーと呼ばれてはいるが、抱えている研究者は1,800人だ。日本のベンチャーイメージとは全く違う。このような企業が日本に簡単に生まれるとは思えまい。

 ・・・などと解説してもたいした意味はない。地元では、技術の系譜は衆知である。日本で通用する報告書程度でよいなら、情報は有り余るほど公開されている。(http://www.wabio.com/images/evolution/Evolution_Large.pdf)

 「わざわざ呼び出して、一体何を聞きたいのだろう。」というのが、ビジネスマン氏の正直な感想だ。

 もともと研究開発地盤がしっかりしている地域を尋ね、バイオ産業の素人がインタビューを行うらしい。そして、おそらく、「ワシントン地区のクラスター産業の勃興」といった題名の研究成果にまとめるのだろう。
 どう考えても、日本の産業振興に役立つとは思えない。ビジネスマン氏が理解に苦しむのは当然だろう。

 ここまで話しを聞けばわかると思うが、ビジネスマン氏は大きな誤解をしている。
 調査目的が違うのである。


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