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2005.6.30
 
 


わからぬ報告書…

 笑い話ではないが、真面目に取り上げる気にもならなかったので、一寸、ご紹介しよう。

 2005年4月付の「地域科学技術・イノベーション関連指標の体系化に係わる調査研究」[概要版]を読んでみた。(1)

 冒頭から、そのセンスに驚かされる。

 “データ間の相関関係を分析したところ、規格化データにおける「人口10万人当たり弁理士数」や「人口10万人当たり公認会計士数」等の指標が、「事業所10万人当たり特許出願数」や「事業所10万人当たり商標出願件数」との相関がわかった”そうである。

 それで?

 特許出願には普通は弁理士を使う。そして、出願者のほとんどは企業だ。もちろん、企業の規模が大きくなるにつれて特許出願数が増えるのは常識である。
 数多くの商標登録を必要とするのも、普通は大規模事業者であり、そのような事業者は公認会計士を使っている筈である。
 両者の相関関係は、当たり前の結果としか思えないのだが。

 企業でこんな報告をする研究者は、データ集めの能力しかないと見なされ、研究職に向いていないとやんわりと諭されるのが普通ではなかろうか。

 お役所はきっと逆なのだろう。おそらく、素晴らしい実証研究と見なされるから、こんな記述が登場するのだと思う。

 それより問題は、こうした解析結果が、この研究の目的とどうつながるのか、外部のものにはさっぱり見えない点である。

 と言っても、仮説は提起されている。

 入口系の指標と出口系の指標に分け、両者の相関を見ると、この両者に相関が無いという。つまり、“知的成果の「流れ」が未だ十分に形成されていない可能性”あり、というのである。

 それはそうだろう。もともとそんな流れができていないのが日本の特徴だった。
 それを繰り返し指摘して何の意味があるのか、というのが読み手の感覚だが。
 ビジネスマンなら、“未だ十分に形成されていない”理由を抉り出せと要求するだろう。

 おそらく、これはお役所の「実証研究」だから、そんな必要はないのだ。

 そもそも、このコメント自体が政治的で、実証研究とは縁遠いものになっている。
 実証研究なら、両者に相関は無いと言うしかあるまい。両者に相関があるのは、おそらく一定の条件を満たす時かもしれないのである。日本にはそうした条件を欠く可能性があるというのが、極く自然なコメントではないだろうか。そして、入口と出口を繋げる役割を果たす機能に関する指標を考案することになろう。
 それこそが、“未だ十分に形成されていない”理由を抉り出すことだと思う。

 といっても、この報告書でも、一寸したヒントは挙がっている。
 例えば、自治体のリーダーシップが奏功している県があると記載されている。
 しかし、残念ながら、1例での感覚的な表現で留まっている。リーダーシップの効果を説明するデータもなければ、なんらの解説もついていない。

 これでわかるように、この報告は実証研究の態をなしていない。

 圧巻は、報告書の核である県別指標をそのまま読むことはできないと、報告者自らが指摘している点である。
 指標は、県毎で見るべきでないというインプリケーションが記載されているのだ。周囲の県の状況で、その県の指標の意味付けが変わるという。指標を直接読むとその県の状況を見間違うということである。
 それでは、どう見たらよいのかは語られない。これでは、指標の読みようが無い。

 この報告書の結論によると、“本調査分析を通じ、自治体毎の関連活動・成果の全体像を比較的コンパクトな指標群で把握・分析できる道が拓けた”というのだが。

 --- 参照 ---
(1) http://www.nistep.go.jp/index-j.html


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