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2007.2.27
 
 


創造力を生む「ガツン」とは何か…

 創造性を培うには何をしたらよいか。

 昔から、よくある論議のタネだが、この話を始めるとどうも雑談になりがち。
 真剣に話していても、議論がすぐに発散するからだろう。

 それはともかく、真似では競争に勝てないし、下手をすると知的財産権侵害で手痛い傷を負いかねない時代だ。アイデアの創出体制づくりは緊要の課題との声はそこらじゅうで耳にする。

 小生も、年季が入っていると見なされるからか、しばしば質問を受けることがある。
 その場合は、創造力を高めたいなら「頭にガツンと一撃」が一番、と語ることに決めている。そう語ると、それ以上細かなことを聞かれることがないから、非常に便利な答えである。
 しかし、このことは、「頭にガツンと一撃」の感覚がよくわかっていないということでもある。

 それも致し方ないだろう。
 なにせ、「頭にガツンと一撃」とは、1980年代に出版された本のタイトル名。(1)城山三郎の翻訳だ。
 相当昔のことで、覚えている人も少なかろう。
 小生の場合は、当時、イノベーション創出の秘訣を探るグローバルプロジェクトを進めていたので、忘れられないから、どうしても口からでてしまう。
 その頃の米国では、研究マネジメント層は「頭にガツンと一撃」の講演(2)を聴いて、それこそ、“目から鱗”だった。それほどのインパクトがあったのである。

 ところが、この本、驚くなかれ、今や日本では頭のドリル書になっている。(3)
 流行に合わせた企画なのだろうが、いかにも日本らしい動きだ。

 それこそ、“目からイクラ”だ。
 日本では、ほほ〜、そうなのか、と納得するのに好適な本なのである。
 ここには、“衝撃”など皆無。頭を柔らかくして、新鮮な気分で物事に望めば、なにかいい発想ができそうと考えるだけのこと。

 これは、ビジネスマンが考える創造性とは相容れない。
 ここが理解できない人が多いようだ。

 重要なのは、あくまでも「ガツン」。
 米国の研究者にとっては、この本の内容は「ガツン」だったが、日本に持ち込まれると「ガツン」にはならないのである。
 せいぜいのところ、ふ〜ん、そうなのか、と納得して終わるだけ。
 プラスにはなるだろうが、創造性喚起からは程遠い。

 どうしてこうなるかと言えば、日本の組織は、研究者・エンジニアを純粋培養するからだ。はっきり言えば、大人しく、協調的な振る舞いをするようにしつけるのである。これは、決して悪いことではないが、創造性の強化は期待できない。創造性が欲しいなら、この殻を破る必要がある。

 米国では、口には出さないものの、自己主張できない輩は無能と見なされている。そんな風土で「ガツン」となる内容が盛られているのが、『頭にガツンと一撃』なのだ。
 要するに、君達、そんなに強く自己主張しているが、ナンセンスな話の方が正しいことも結構多いのだぜ、と言われるから「ガツン」とくるのである。
 ところが、もともと自己主張を抑制している環境下の日本にもってきたとたん、その「ガツン」感は消えてしまう。
 ほほ〜う、で終わる。

 誤解を恐れず語れば、日本で「ガツン」の意義を伝えるには、この本の読み方を変える必要がある。ここが一番肝要だと思う。

 例えば、『頭にガツンと一撃』が掲げる“ルール”については、以下のような解説をお勧めしたい。
 早い話、研究者・エンジニアが反撥したり、怒りを覚える位の“衝撃”を与える必要がある。それがなければ効果はゼロと見てよい。

 ● 正解は一つでない
違う見方があるのは当たり前。そんなものを羅列したところで、新しい考え方など生まれない。重要なのは物事の本質に迫ること。より本質的な解に迫ろうとの気迫が不可欠。

 ● 論理的でなくてよい
なにがなんだかわからぬ非論理的な話が通用する訳がなかろう。論理を組み立てるのが難しいが、どうも正しそうだとの直観が重要なのである。ここで論理にこだわると、直観と違う方向に進んでしまうというだけのこと。直観力が無ければ、話にならない。

 ● 間違えてもかまわない
単なる思いつきに意義がある訳ではない。古今東西の膨大な知識を持った人の思いつきだから意味がある。浅薄な、行き当たりばったりのアイデアはゴミ。

 ● 遊び心も大切だ
遊び半分で考えて成果が生まれた話は聞いたことがない。好奇心の塊だった、子供の頃のエネルギーと、本気で遊びに熱中した頃の精神を取り戻せということ。

 ● 馬鹿なことをしよう
下らぬことをしても、ろくな結果はでない。本当に馬鹿になるだけのこと。馬鹿になるというのは、ひとつのことを深く考え始めると、他のことが見えなくなることを指す。他人からみれば馬鹿なことをしているように見えるだけの話。

 ● 誰にでも創造力はある
創造力があるとの自負がなければ、話にならない。自分は創造力を欠くと思っている人から知恵が生まれる訳がなかろう。

 --- 参照 ---
(1) Roger Von Oech原著 城山三郎著「頭にガツンと一撃」新潮社 1984年
  原書: “Whack on the Side of the Head: How You Can Be More Creative”Warner Books 1983年
(2) http://www.creativethink.com/
(3) 川島隆太訳「頭脳を鍛える練習帳―もっと“柔軟な頭”をつくる! 」三笠書房 2005年


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