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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.6.3 ■■■

三十三天

"三界二十八天"の欲界に属すのは六天。このうち、人間界のすぐ上に位置しているのが四大王天。「卷三 貝編」はその天に関する"録異"話から始まっている。
短い文章で、なんだかよくわからぬ記述だが、"預流の果"の嬉しさを語っていそうな気がしてきた。 [→「持天」]

それに続く話は、四大王天の上位にあたる利天(三十三天を意味する原語の音訳)となるのが自然な流れ。ここは須弥山の頂上の地。統領たる帝釈天が中央に居り、周囲の4峰に各8天で、合計三十三天。どんな話になるやら。

讀めば、案の定、出だしからさっぱりわからず。

 目不
 衆蜂出妙音。
 六天香風,皆入此天。


ソースは以下の如し。・・・

受五欲樂,愛著欲味,目視不,身如日光,愛樂彼地,一切蓮華,如白象色,莊嚴其地,華常開敷,一一蓮華,香氣普熏一百由旬,勝余一切衆華之香,種種色蜂,琉璃色,出種種音,人中種種伎樂音聲,---

勝蜂歡喜無量衆蜂出衆妙音,---

四天王天,香氣二倍,三十三天,香氣三倍,夜摩天上,香氣四倍,兜率陀天,香氣五倍,化樂天,他化自在天,香氣六倍,以業勝故,天衆亦勝,觀善業已,其風行天,遊戲林中,受諸香觸,六天香風,皆入此天,

  「正法念處經卷第二十三 觀天品第六之二 三十三天之二」

蜂の奏でる妙音との感覚はよくわからぬが、咲き乱れる花の周りを飛び回る情景ということなら、納得感あり。それに芳香が漂ってくるなら言うこと無し。もしも成式流に徹するなら、お布施集めに忙しい出家者の前世は蜜蜂に違いない、と誰それが語ったと記載するのがベストだが、流石にそこまでは。
そのどこが"録異"に当たるのかは、わからず。
読めない人は相手にせずといった調子。

続く文章に移ろう。
利天こと三十三天話ではなく、四天王の話に戻ってしまった。

 四天王十地彩地、質多羅地八林。
 箜篌天十地金流河、無影山、有影遊、烏隨。其行處,池同其色。衆烏説偈白身天,身色如拘勿頭花,無足柔,隨足上下。樂遊戲天,乘鵝殿,寶樹枝葉如殿。


再度、四天王の十地話だが、どう見ても、とりあげたいのは佛の教えに迫ることで生まれる「歓喜」ではない。
 乾陀羅,應聲,喜樂,探水,白身,共娯樂,喜樂行,共行,化生,集行.
  「正法念處經卷第二十四 觀天品第六之三 四天王之三」

人生、王侯貴族が好むような地での、娯楽遊戲あってこそ、との気分濃厚。香樹と蓮花池の庭園に臨む立派な建物があってこその楽園と見なす発想と言えよう。竹藪の山麓に建てた質素な家屋から、遠くの湖を眺める情景をのんびり眺める姿勢とは似ても似つかぬ。
そうなると、天女無しも考えられぬ訳で。・・・

 三十三天,九十九那由天女,
 憶念樹物,隨意而出。
 十花池、千柱殿。
 六時林,一日具六時。


有九十九那由他天女以為眷屬,恭敬圍遶供養帝釋,如一女人供給丈夫。諸天女等心無嫉妬,供養天后同奉帝釋,亦無妬心。---
復有無量憶念之樹,隨諸天女心之所念,莊嚴之具、天衣、天華隨念皆得,故名意樹。---
其善法堂有十大華池。---
其山有殿,名曰勝上,殿有千柱,其柱皆以金毘琉璃、青摩尼寶之所成就。---
自見身色,輕餘女人。復捨此地,更詣一林,名一切時。其林一日具有六時,常不斷絶猶如輪轉,以六種時而為莊嚴。林中衆鳥無量雜色,隨其林中時分相似,共遊林中,離於嫉妬,心懷ス樂。見此林已,隨心所念,入六時林,隨時遊戲而受ス樂。種種時鳥自集遊戲,與諸天女而相娯樂,於此林中受五欲樂,不念餘林。時天帝釋既至此林,天女歡喜歌舞戲笑,供養帝釋。如是帝釋,一林之中種種功コ皆悉具足。

  「正法念處經卷第二十五 觀天品第六之四 三十三天初」

ただ、樂遊戲と言っても、エンタテインメントということではなく、始終徳を意識し倫理遵守に汲々しなくても、自然体で過ごせる境地に入るというのが宗教的解釈といえよう。釈尊の教えに従って生きることが楽しくなれば、当然そうなるという論理。仏典逍遥で遊ぶ段階を通り過ぎ、自然と触れ合うだけで命の息吹を感じ不思議と嬉しくなってくるという理屈で。
凡人には、金毘琉璃の柱の楼閣など、まさしく下品そのもの建物に映るが、宗教家は、贅を尽くした邸宅こそ、楽園の要件なりと考えるのであろう。なにせ、日本では天皇より豪勢な御殿に住むことが習わしらしいと、フランスの文化人が発言したりするのだから。但し、それは日本の風土かも。毛沢東が、日本の小さな組織の独裁者御来訪状況を見て、陽の上る國から天子様ご一行がいらした、と皮肉ったとの笑話があるくらいだから。

(引用) 般若流支訳[刊行會編]:「正法念處經」@大正新脩大藏經 大藏出版 1988
(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎 1」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.


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