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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.8.2 ■■■

桑柴灰汁

蛇足のお話[→]で、"桑柴灰汁"についても記載があると書いたので、ソレを。・・・

壁鏡,一日江楓亭會,衆説單方,
  成式記治壁鏡用白礬。
重訪許君,用桑柴灰汁,三度沸,取汁白礬為膏,塗瘡口即差,兼治蛇毒。
自商、ケ、襄州多壁鏡,毒人必死。
坐客或雲巳年不宜殺蛇。
 [續集卷八 支動]

壁鏡とは比良太久毛[扁蜘蛛]らしい。

言うまでもないが、ヒトがこの蜘蛛に噛まれて死ぬことは無い、というのが、常識的な見方。

しかし、咬まれた人を調べた疫学的な調査結果に基づいた見解ではない。毒性についても、調査されているとも思えない。従って、この常識を唐代にそのまま当てはめてよいかは、なんとも。

と言うのは、蜘蛛は肉食。獲物を噛んで麻痺させる力はある。弱毒であろうと、極めて微量だろうが、リスクゼロとは言えないのである。
ご存知のように、蜂に一発刺されただけで、アナフェラキシーショック死することもあるからだ。

蜂は屋外に相当な数が棲息しており、刺される人数も多いから、死亡事故が目立つだけ。
一方、この手の蜘蛛に噛まれる事例は僅か。昔の家屋なら、空家的な土壁の巣に手がかかってしまうこともあったろうが、現代ではおよそ考えにくいからだ。しかも、その僅かな例で、たまたま特異体質だとショック症状を呈する可能性があるというに過ぎない。
死亡確率は、限りなくゼロに近いのは間違いなかろう。

しかし、唐代もこの理屈が通るのかはわからない。

さて、治療方法だが、咬まれた箇所に白礬[=明礬:硫酸カリウムアルミニウム12水和物]に、"桑木の枝を焼いた灰"で3回煎じた汁を加えた軟膏を、とされている。

神経毒は、化学薬品では対処は難しいから、意味はなかろうが、水分がある限り酸性を持続するから殺菌効果は期待できよう。(好酸性菌には逆効果だが。)傷口の蛋白質を変性させるだろうから、瘡口拡大を抑えることになるかも。
消毒薬、軟膏、絆創膏などが常備している時代ではないのだから、悪くない措置だったと言えそう。なにせ、現代でも、"硫酸Al/K"は、大衆薬の「○○○○○軟膏」の成分なのだから。もっとも、"虫さされ"は悪化する可能性があるので使うな、と。

桑枝灰の効能はわからぬが、蚕を育てる桑の木の威力を頂戴するということでは。但し、現代でも、中薬扱いである。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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