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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.8.5 ■■■

タトゥーの高官

「刺青」の話として、パンク、肉刑、断髪黥面の越の習俗、勇猛墨黥面部族表象をあげたが、[→]行政官として働いた人物の"黥"についても見ておこう。
他とは、書き方が少々違うのである。

その人物とは、崔承寵。
傑物として史書に引かれるほどではないようだが、白楽天の一文があるから、有能な高級官僚として働いていたことは間違いない。・・・

  「崔承寵可集州刺史制」 白居易
敕:太子左諭コ崔承寵,早登班級,亟換星霜,自陳力於貴朝,奉辭於外國,職由事博,績以勞成。
就列宮坊,既申賛諭之美,分符郡邸,佇聞刺舉之能。宜勵公心,祗承寵命。
 [「全唐文」卷0659]

"崔"姓は、朝鮮半島に居留することになった清河系漢族が多いが、承寵の出自は違いそう。崔姓の有名人は見当たらないが、体質を考えると、少数民族彝族系の血筋を引くのかも。(西部に居住していた古"羌"が祖。階層に関係なく、皆、競馬を好むし、夜通しの酒盛りも大好きである。)

貴州辺りの、独立独歩的風土濃厚な、それこそ、野郎国のような気風が目立つ少数民族を統治するには、風貌的にも最適な人物ということで登用されたのではなかろうか。

成式は以下のように記載している。・・・

崔承寵,
少從軍,
善驢鞠
[=馬打毬/Polo],豆脱杖捷如膠焉。
後為黔南
[@貴州=黔]觀察使。
少,遍身刺一蛇,始自右手,口張臂食兩指,繞腕匝頸,齟齬在腹,股而尾及焉。
對賓侶常衣覆其手,
然酒酣輒袒而努臂戟手,
捉優伶
[=役者]輩曰:
 “蛇咬爾。”
優伶等即大叫毀而為痛状,以此為戲樂。
 [卷八 黥]
若い時は従軍。
ポロが得意。運動神経抜群で、曲芸的なレベル。

何年かかけて、身体全体に一匹の蛇の刺青を彫ったようである。
頭は右手の上部で、
口は中指と食指
(人差し指)
上腕が頸部にあたり
胴体は臀部まで伸びていた。
尾は腿の先にまで達していた。

大官になろうという気もなかったのであろう。
軍人としての覇気を示すには、刺青しかあるまい、
  との短絡思考そのもの。
若気の至りということか。

ところが、朝廷から見れば、使い途大いにありということで、
州の長官ではないものの、高官である、
  貴州南部の監察官の地位に。

刺青が消えることはなく、くっきりとそのまま残っている。
従って、賓客との会見ではえらく拙い。
そこで、そんな時は衣の袖で右手を覆っていた。
不用意に刺青を見られないように用心していた訳だ。

ある日のこと。ついつい酒がすすんでしまい、かた脱ぎ状態に。
すかさず、呼ばれていた役者が、
 「蛇に噛まれた!」と。
大声で叫んで、痛そうに品をつくった。
そんな風にして、その日は、皆、大笑い。
ふざけあって大いに遊んだのである。

これを書いている成式も楽し気。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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