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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.8.11 ■■■

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漢字の書体についての話に、触れておこう。[卷十一 廣知]

書体といえば、"大篆,籀文,小篆,古隷,八分,楷書,行書,章草,飛白,草書"が知られているが、もともとは様々なものがあったに違いない。
多くの場合、一世風靡した書人のお蔭で、一つの書体が定着する訳だが、そうなると、そもそもの源流だった書体の方は忘れ去られてしまう。
と言うか、天子と官僚が書体の標準化を進めただけのこと。

ただ、古い書体を掘り起こそうとする文人もいる。
その一人が、「歴代名画記」の著者として知られる晩唐の文人、張彦遠。まとめあげた「法書要録」には、書道39文献が収録されている。(加えて,4篇の名称が記載されている.)
今村注記の通り、この本には、書体が100にのぼることが記載されている。・・・
齊末王融圖古今雜體有六十四書,少年崇仿,家藏紙貴。而鳳魚蟲鳥是七國時書,元常皆作隸書,故貽後來所詰。湘東王遣沮陽令韋仲定為九十一種,次功曹謝善淫搗エ九法,合成百體。

その主な書体名を、成式は並べた訳である。

百體中
有懸針書、垂露書、秦王破冢書、金鵲書、虎爪書、倒薤書、偃波書、信幡書、飛帛書、籀書、謬、篆書、制書、列書、日書、月書、風書、署書、蟲食葉書、胡書、蓬書、天竺書、楷書、書、芝英隸、鐘隸、鼓隸、龍虎篆、麒麟篆、魚篆、蟲篆、烏篆、鼠篆、牛書、兔書、草書、龍草書、狼書、犬書、書、震書、反左書、行押書、揖書、景書、半草書。


こればかりは、名称を示されても、画像がないと全くわからない。東洋文庫版には、蕭子良:「篆隷文体」古典保存会事務所 1935[NDLウエブ非公開]のモノと思われる小さな写真が掲載されている。
マ、末尾に記載したURLを参照されるとよいだろう。
百聞は一見に如かずということで。

ただ、現代の多種多様のフォントや絵的デザインの装飾文字として見ない方がよいと思う。(素人が見ても、篆隷を自然界の生物等を用いて意匠化した文字以外のなにものではないのは確かだが。)
それぞれの書体には、部族的信仰や思想の歴史が組み込まれている筈であり、そうした関心を失ってしまうのはあまりにもったいないからだ。
   「蝌蚪文字」

そういう点では特筆すべき書体がイの一番に記載されている。

鬼書 有
 業
[=青銅製炊飯容器],刀鬥[=軍事部門]出於古器[=出土品]

"鬼書"はおそらく、辟邪法術用の器物に咒語あるいは符として記載される際の書体。七星劍、師刀、月斧といった武器形状の法器が普及する前の時代ではないか。

もちろん、中華帝国としては、国家が包含するそれぞれの機能毎に書体の統一を図ったのである。・・・

召奏用
 虎爪,
 為不可學,以防詐偽。
誥下用
 偃波書。
謝章詔板用
 書。
節信用
 烏書。
朝賀用
 慎書,一曰填。
 亦施於昏姻。


こうした展開は、官僚統制国家としては当然の流れ。もちろん、西域の真似である。

西域書有
驢唇書、蓮葉書、節分書、大秦書、.乘書、牛書、樹葉書、起屍書、石旋書、覆書、天書、龍書、鳥音書
 等,有六十四種。


張彦遠が中華帝国の原初的な書体としたのと同じ64である。
今村注記には、大秦書はアルファベットと思われる、と。

(参考)
全容範:「雑体書の書体意匠の特色について : 『篆隷文体』を例に」デザイン理論,43,2003 http://ir.library.osaka-u.ac.jp/dspace/bitstream/11094/53170/1/jjsd43_037.pdf
"雑体書の世界"@雄峯閣 ―書と装飾彫刻のみかた― http://www.syo-kazari.net/moji/zattai1.html
(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.


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