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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.8.28 ■■■

鳥形の妖怪

鳥形の妖怪を「卷十六 廣動植之一羽篇」に収録していることはすでに触れたが、内容については全く検討していなかったので、眺めておくことにした。
   「羽 (難物)」
先ずは正真正銘の鬼神。・・・
【夜行遊女/天帝女/釣星】
夜行遊女,一曰天帝女,一曰釣星。
夜飛晝隱如鬼神,衣毛為飛鳥,脱毛為婦人。
無子,喜取人子,胸前有乳。
凡人飴小兒不可露處,小兒衣亦不可露,毛落衣中,當為鳥祟。
或以血點其衣為誌。
或言産死者所化。

昼間は隠れていて、夜になると飛び廻る鬼神。
鳥類のように羽毛に覆われているが、それを脱げば女性である。
自身に子供はいないが、他人の乳児を奪取することを喜びとしている。女性であるから、胸には乳腺がある。
(祟られるから注意すべきことがある。)
表で子供に飴を舐めさせてはいけない。また、子供の着物をそのまま乾して、夜露に晒してはいけない、毛が落ちて子供の衣類につくのも駄目だ。
或いは、この鳥は子供の衣服に血をつけて、印にする。
或いは、産褥で死亡した妊婦の化け物とも。


鳥には蝙蝠のような超音波探知能力は無いし、鳥目と呼ばれるように、光量が弱い世界では飛べないと教えてもらうが、現実には夜に活動している鳥は珍しいとは言い難い。昼行性とされる鴨も夜に移動したりするし、杜鵑や仏法僧が夜に鳴いたりすることがあるのも、鳥観察好きの人々には昔から結構知られている。
それに、もともと暗い森林に棲息している種にとっては、昼よりは夜の方が視力で優位に立てるから、餌獲り活動を夜にするのは当然の選択と言えよう。家畜の鳥とは訳が違うのである。以下が夜型として有名である。
 夜鷺/Night heron/五位鷺[ゴイサギ] or 夜烏[ヨガラス]
 頭鷹
梟[フクロウ],[ミミズク]
 溝五位
[ミソゴイ]
 虎鶫
[トラツグミ]

夜行遊女と、産女鬼神を同一視する発想には違和感を覚えるが、避妊方法がなかった時代だから、それは当然の成り行きかも。遊女は確実に妊娠するが、護ってくれる家庭を持たないのだから出産時の死亡率は格段に高かった筈。一般の産褥死亡と同様の憂き目ということで。
日本では、死亡した妊婦の妖怪は「姑獲鳥/憂婦女鳥[うぶめ]」と呼ばれ、血に染まった腰巻きを纏って、子供を抱いている姿で描かれるのが普通。(遺骸の腹を裂いて胎児を出して、母に子を抱かせて埋葬することが供養になるとの信仰があったことを物語る。)このため、鳥形より、ヒトそのものが飛ぶイメージが強そう。従って、暗い森に棲むような鳥とのキメラにはなりそうにない。もともと、キメラを嫌悪する風土だし。どうしても描きたい場合は、海鳥系になるのでは。声はウミネコやカモメが合っていそう。

中華帝国では命は軽い。このような感覚は生まれようがあるまい。

尚、出処だが、以下に引用した、郭璞[276-324年]:「玄中記」の"姑獲鳥"のようである。但し、後述する九頭鳥の鬼車鳥と習合させられている。

姑獲鳥夜飛晝藏,蓋鬼神類。衣毛為飛鳥,脱毛為女人。二句北戸録引在豫章男子句上一名天帝少女,一名夜行游女,御覽引作名曰帝少女一名夜游今依北戸録引補一名鉤星,御覽一引作釣星一名隱飛。鳥無子,喜取人子養之,以為子。今時小兒之衣不欲夜露者,為此物愛以血點其衣為志,即取小兒也。今時至此已上荊楚時記注引作有小兒之家即以血點其衣為志御覽引作人養小兒不可露其衣此鳥度即取兒也經史証類本草十九引作今時人小兒衣不欲夜露者為此也今依北戸録引補故世人名為鬼鳥,荊楚時記注引有此句荊州為多。昔豫章男子,見田中有六七女人,不知是鳥,匍匐往,先得其毛衣,取藏之,即往就諸鳥。諸鳥各去就毛衣,衣之飛去。一鳥獨不得去,男子取以為婦。生三女。其母後使女問父,知衣在積稻下,得之,衣而飛去。後以衣迎三女,三女兒得衣亦飛去。今謂之鬼車。

「酉陽雑俎」では、続いて、頭10個の怪鳥の話になる。・・・
【鬼車鳥】
相傳此鳥昔有十首,能收人魂,一首為犬所噬。
秦中天陰,有時有聲,聲如力車鳴,或言是水過也。
《白澤圖》謂之蒼,《帝書》謂之逆,夫子、子夏所見。寶歴中,國子四門助教史迥語成式,嘗見裴瑜所註《爾雅》,言是九頭鳥也。

鬼車鳥伝説がある。
それによれば、昔から
(人面の)頭が10あって、人の魂を吸収していたそうである。ところが、そのうちの1つの首を犬に噛み切られてしまった。秦では、空が曇ってきて、鬼車がいると音がすると言われている。もちろん、力車が鳴る音である。それは水鶏[=水鳥の秧鶏/クイナ or 水生青蛙の虎皮蛙]が通過した音と言う人もいる。

これは楚國のトーテム"九頭鳥"と考えられているようだ。従って、中華帝国の主流派から見れば、潰すべき対象でしかない。不祥之兆ということ。
魂を吸うという特徴から見て、鳥としては本来的には梟を指す筈。日本だと、フクロウは"福來朗"と呼び換えることになる。と言うのは、吉祥天のシンボルでもあるからだ。しかし、大陸ではそうはいかない。あくまでも、"逐魂鳥"であり、喪中的イメージしかないのである。

コレ(ら)が、鳥形の妖怪の代表と考えて間違い無い。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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