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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.8.30 ■■■

青田酒

置いておくだけで、水が酒に替わる魔法のようなお話が収録されている。
これはすでに「桃信仰の変遷」[→]で、巨大な桃核の発見話と一緒に引用した。成式は道教的信仰のお話として見ているとして。
そこらを、もう少し眺めておくのも悪くなかろう。・・・

青田核,莫知其樹實之形。
核大如六升瓠,註水其中,俄頃水成酒,
一名青田壺,亦曰青田酒。
蜀後主有桃核兩扇,毎扇著仁處,
約盛水五升,良久水成酒味醉人。
更互貯水,以供其宴。即不知得自何處。
 [卷七 酒食]
青田核は、樹木、果実ともに、その形が不明。
核は6升程度の瓠の大きさ。
水を注いで暫くおくと酒になる。
そんなこともあるので、別名は青田壺や青田酒。
蜀の地では、桃核両扇があるが、水5升を盛っておけば、水に酒の味がついて、酔えるようになる。
ペアで交互に水を貯めることで、宴会に供することが可能。
ただ、この出自は知られていない。


出典と思われる文章には、この樹木の棲息地は烏孫[イリ盆地(イシククル湖)の遊牧国家]と記載されている。
と言うことは、成式は異なる出自と見ているのだろう。
道教が盛んな地における、烏孫渡来を称する擬似酒と考えたのかも知れぬ。
もしもそうだとすると、青田は浙江南部にある道教聖地の地名を意味している可能性もあろう。(華僑之郷、石雕之郷、かつ田魚之郷と呼ばれる地。その西北境に"青田山洞/青田大鶴天"[道教聖地三十六洞天(#30)]がある。)
つまり、青田大鶴天で開発された秘儀。それが蜀に伝わったということ。

烏孫國有青田核,莫測其樹實之形,至中國者,但得其核耳。得清水則有酒味出,如醇美好酒。核大如六升瓠,空之以盛水,俄而成酒。劉章得兩核,集賓客設之,常供二十人之飲。一核盡,一核所盛,已復中飲。飲盡隨更註水,隨盡隨盛,不可久置。久置則苦不可飲。名曰青田酒。 [晋 崔豹:「古今注」卷下 草木第六]

一体、この果実は何かということになるので難しさが増すが、強引に推定してみよう。

水を張った青田核とは、桃核のような大きな核殻容器に、小粒果実の核を沢山入れたものを指すと読み取れないこともなかろう。そう考えると、醗酵しかけた緑の野葡萄でも入れたのでは、となる。
マ、アルコール分は感じるだろうが、不味くて、とても飲めるような代物ではなかろうが。

ただ、道教は奇術好き。実際は野葡萄酒が供されていたかも。

ともあれ、青苗育つ田圃に天から降り立った鶴の精を頂戴できるということで飲まされていたのではないか。
麹黴でつくるドブロク系とは違い、濁らない果実種系の酒は西域の雰囲気があるから、とてつもなき高貴な印象を与えた可能性もあろう。
ただ、あくまでも、ウリは、西域渡来の超高価な長命酒並のご利益ありということになろう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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