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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.9.20 ■■■

解夢のコツ

「巻八 夢」の概観についてはすでに書いてみた。[→]

ただ、「解夢」の本質に迫った訳ではないので、その辺りのことに少々触れておこう。
成式は、半ば皮肉的に書いているので、簡単に。

この分野には定番となっている「周公解夢」という書がある。民間伝承を、もっともらしい体裁に適当に編纂したもの。[敦煌出土だが偽書とか.]しかし、そのような話を参考にしなくても、素人でも、夢の意味を推し量ることはできよう。そもそも正答がある訳ではないから、「解夢」などいかようにも描けるわけで。

例えば、枯れかけの植物の夢を見たなら、憂鬱な気分を反映していると想定するのは当たり前。職業人的な用語でその見方を表現したいなら、「運気の低下を意味する夢ですな。」とでも言えばよいだけのこと。

逆に、青々した植木の夢だとすれば、日々順調で、只今気分良しでは。
それが、栽培種なら、個人生活に大いに満足しているのではないか、と見なせばよいだけ。
それが、大切に保護されている植物だと、見かけは青々でも、今一歩の気力となろうか。
雑草が登場したのなら、元気溌剌でも、頑張ってはいるが結局のところは徒労に終わりそうと感じているのでは、といった具合。
この程度は、誰でもが思いつくレベル。「解夢」とは本質的にそんなものであろう。

と言うか、要するに、植物の生育・成長の夢は、当人の活力と、自分なりの見通しを反映している筈と考えているだけのこと。潜在意識下にある、本音の感情が現れている可能性が高いとみなす訳だ。

そんな例として、成式があげたのは、松と棗の木。・・・

補闕楊子孫,善占夢。
一人夢松生産前,
一人夢棗生屋上,
言:
 “松,丘壟間所植。
  棗字重來,重來呼魄之象。”
二人
  [卷八 夢]
侍従職"補闕"にいた、夢占いを得意とする人の話。
出産前に、松が生えてくる夢をみた人がいた。
また、棗が屋上に生える夢をみた人がいた。
彼の占いによれば、
 「その松は、墳墓の間に植えるモノ。
  "棗"という字は、"來"が重なっている。
  重来とは魄を呼ぶことの象。」
そして、二人とも、実際に死んでしまったのである。


確かに、松柏は墳墓に植えられる樹木ではあるが、万年松と呼ばれ、長寿の象徴でもあるから、一般的には吉兆とされるのではなかろうか。
にもかかわらず、そのような見立てをするのは、夢以外のファクターを勘案しているか、相手に暗示で影響を与えようとの目論見と見てよかろう。

"棗"になると、さらに胡散臭い「解夢」である。滋養に富む実が成るのだから、こちらも縁起が良い筈だからだから。
しかも、素人でも知っていそうな文字の成り立ちを否定している訳で。・・・
この文字は、"來"x2ではなく、"朿"x2である。つまり、"刺+/トゲ"。トゲが刺さる高木を指すのである。"棘"は、本来的には横に広がる低木[ノイバラ,等]である。
重来は、捲土重来という言葉しか知らぬが、出直す[再次出去]という意味でしかない。
それを無理に、魄呼びと解釈した可能性もあろう。

かなり悪質な占いだと思うが、どのような影響がでるか無知であると、そうは思ってはいないからさらにタチ悪し。
例えば、今の食事にアレルゲン物質が入っていたと嘘を言われるだけで、アレルギー疾患の人はすぐに発症したりするもの。
文明社会から隔絶された地では、科学的には無毒でどうということもない食物が、死を招く食物とされたりしていることがあるが、そんな場所で、アンタは間違って食べてしまったようだと告げられると、本当に死んでしまったりするもの。
ヒトの信仰とは恐ろしいもので、暗示をかけられて不調をきたすことは珍しくないのである。権謀術数の世界では、だからこそ、呪い殺す術が横行していたとも言えよう。そんなことをされていることに気付いたりすれば、気分悪しで留まっていることは稀だったのであろう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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