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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.9.22 ■■■

視肉

「畢[=田+𠦒=田罔]」の話で[→]、"視肉"の話をした。
 聚肉,形如牛肝,有兩目也;食之無盡,尋復更生如故。
  [「山海経」の注]

最奇的事物と見られていた筈。

従って、"視肉"と命名されたのは自然な流れと言えよう。
なにせ、食べること最優先の風土なのだ。コレは明らかに肉なりと判定されれば、熊、羆、虎、豹と並ぶ動物として扱うしかなかろう。しかし、単なる肉の塊としてしまえば、生命感ゼロ。多分、眼球くらいはあろうということになり、この名前に落ち着いたのだと思われる。
狄山,帝堯葬于陽,帝葬于陰。
爰有熊、羆、文虎、、豹、離朱、視肉。
吁咽、文王皆葬其所。
一曰湯山。一曰爰有熊、羆、文虎、、豹、離朱、𩿨久、視肉、交。有范林方三百里。
  [「山海経」海外南経]

しかし、常識的には、「本草綱目」@1596年の判定。菜之五芝類の"肉芝"である。この手の芝は、"久食,軽身不老,延年神仙"とされており、たまたま見つかったりすれば、これぞ"肉靈芝"ということでアッという間に喰い尽くされてしまったろう。
葛洪《抱朴子》云:芝有石芝、木芝、草芝、肉芝、菌芝,凡數百種也。
  :
肉芝状如肉,附於大石,頭尾具有,乃生物也。赤者如珊瑚,白者如截肪,K者如澤漆,青者如翠羽,黄者如紫金,皆光明洞徹如堅冰也。


生物学者も"芝"類との見方にお墨付きを与えている。極めて稀有な菌類だが、時に地中から巨大なモノが発見されており、その特徴はそっくりだから、当然だろう。ということになれば、"視肉"は粘菌に間違いなし、で一件落着。

実は、「酉陽雑俎」には、そのものズバリ"肉塊"[肉芫/視肉]の話が収録されている。
流石、成式だけのことはあり、"視肉"という言葉には一切触れていない。しかし、それが、俗称"太歳"であることを示唆している記載となっている。・・・

州即墨縣[州府@山東青島]有百姓王豐,兄弟三人。
豐不信方位所忌,常於太上掘坑,見一肉塊,大如鬥,蠕蠕而動,遂填。
其肉隨填而出,豐懼,棄之。
經宿,長塞於庭。
豐兄弟奴婢數日内悉暴卒,唯一女存焉。

  [続集巻二 支諾皋中]
百姓の三人兄弟がいた。
方位忌避の類を全く信じていなかった。
太歳
[木星]が子の方角にある場所にて、土木工事で坑を掘っていた。
すると、一見、肉の塊のようで、よく見れば寄せ集めた肉のようであり、門のような大きさで、蚯蚓の如くモゾモゾと動いているものに出くわした。結局、穴を塞いでしまった。その肉は取り除いても又出てくるのでビックリ。棄てることに。
そうこうするうちに、翌日になると、庭全体を覆ってしまうまでに。
その後数日内に、3兄弟とその奴婢達があっけなく死んでてしまった。
ただ、女だけは、生き残っていた。


尚、霊芝は担子菌に該当する万年茸類(赤芝,黄芝,白芝,青芝,K芝,紫芝)で、北半球の温帯広葉樹林で普通にみられる茸。粘菌類は、ずっと変形菌とも呼ばれて、その類縁扱いだった。今でも、小生もそうなのだが、通俗的にはそれが続いている。しかし、分類学上では全く異なる系統とされている。
"視肉"もそこに入るが、毒性どころか、ほとんど何もわかっていない状況。アメーバ動物で見れば、古アメーバ類には赤痢アメーバが入っているから、病原性ありの可能性も否定できない。それに、生育適地の条件が狭い訳で、その土に含まれるものになんらかの毒性があってもおかしくなかろう。
なんだかわからぬものを、霊芝と一緒クタにして評価するナということでは。
┌─アメーバ動物/Amoebozoa
┼┼├粘菌類 (おそらく、"視肉"が入る。)
┼┼├古アメーバ類 ("赤痢アメーバ"が入る。)
┼┼埃類,・・・

│┌菌[茸,黴,酵母]
││├担子菌 ("霊芝"が入る。)
││鞭毛菌,接合菌,接合菌,・・・
└┤
└動物

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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