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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.10.4 ■■■

帝の龍鬚

杜甫の詩を検索していて、ヒゲ詩があったので、該当箇所をご紹介。・・・

 「八哀詩 其四 贈汝陽郡王」  杜甫
  :
 汝陽讓帝子,眉宇真天人。
 
[=鬚]似太宗,色映塞外春。・・・
玄宗/李隆基の兄である譲帝/李憲の子、汝陽王の鬚が太宗/李世民に似ているとのこと。

 「送重表評事便南海」  杜甫
  :
 次問最少年,髯十八九。・・・

太宗/李世民髯十八九と。

漢字だが、鬚は頬ヒゲ、髯は顎ヒゲ、髭は口ヒゲである。下の詩では何故に鬚にしていないのかは定かではない。(後世の写本だからといっても、間違うことは考えにくい。)
ヒゲの状況を示すだが、古代漢族伝説で登場する有角の小龍の名称。
日本での蛟竜[みつち]に相当するらしい。荒ぶる水霊の呼称であろう。
 虎に乗り 古屋を越えて 青淵に 蛟竜捕り来む 剣大刀もが [万葉集#16-3833]
要するに、「帝のヒゲは龍のヒゲ」と囃している訳だ。

杜甫の詩でとりあげているモチーフとはこの程度のもの。どっぷり道教の李白と、本質的にはたいして変わらない。

言うまでもないが、太宗のヒゲ話は「巻一 忠志」に登場する。

小生はこの話を「李王朝前期略史」の記述とみなし、太宗に特異な能力ありと喧伝する典型的手口として収録されていると考えた訳である。[→]・・・

太宗[=鬚]、嘗戲張弓掛矢。
好用四羽大
[=箭/矢]、長常箭一膚、射洞門闔。
太宗/李世民鬚を生やしていた。戯れにその鬚で弓を張って、矢を番えてみた。愛好する四羽の大箭だが、それは通常の箭より長かった。射たところ、矢は門扉を貫いた。

成式的に想像すれば、太宗のヒゲはご下賜品でもあったということになろう。武将はチャームとして大切に扱わねばならぬ訳だが、それは忠誠を誓う姿勢を示すことでもある。帝を龍と見なして敬わねば、命も危ういというのが中華帝国の制度である。そのヒゲを頂戴するためには、文民官僚にそれなりのお礼が不可欠であり、高級官僚にとっては実に嬉しい仕組みと言えよう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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