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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.10.17 ■■■

蟲草

「酉陽雑俎」に、「冬蟲夏草」が登場しているとの話を至るところで見かける。(学者の文献での話。)
しかし、どの篇にどのような内容で記述されているのかについて、全く触れていないので、その箇所を探すのは骨である。小生が探した限りでは、“蟲草”は見当たらないのだ。
(「欽定續通志」卷一百七十八昆蟲草木畧@欽定四庫全書での蛭を指すのかも知れない。)

但し、生物学的に「冬蟲夏草」を昆虫や蜘蛛に寄生し茸を発生させる菌と定義するなら、その1種である"蜂茸"とみなせそうな記述は1ヶ所あるにはある。あくまでも毒蜂であって、「菌生於蜂」とも「虫草」とも書いてはいないが、キノコから蜂が生まれるというのだから、"蜂茸"を指していると言えなくもない。
   「蟲(蜂[続])」
【毒蜂】:嶺南[広東〜越南]に毒菌[キノコ]がある。
夜が明け、しばし雨が降ると、腐ってしまい、それが巨大な蜂と化す。
色は黒。喙部分は鋸のようで、体長は3分余り。
夜になると、人の耳や鼻に侵入してきて、人の心の糸をぶっちぎる。


そうそう、"蜂茸"だが、これは日本国内でのみ通用する呼び名。虫草の一種なのだから、蜂頭虫草と呼ぶことが多いようだ。体の大きな雀蜂の場合は、特別に黄蜂虫草となる。蛹に寄生することもあるようで、その場合は蜂蛹虫草。

正真正銘の「冬蟲夏草」とは、大蝙蝠蛾の幼虫に寄生する茸。この語彙は、唐代迄の書には見つかっていないようだから、かなり新しい時代に入ってから、チベット医薬書と一緒に渡来したと考えるのが自然。中華帝国の風土から考えて、渡来の証拠はすでに消されている可能性は高いが。

"虫草"ということで見て見れば、様々な昆虫や蜘蛛類で発見されておかしくない訳で、その種類の数は半端なものではなかろう。本来的には珍しくなくても、発生場所が湿った地中なのことが多いために、滅多に発見できないできたというのが実情だろう。
生物学的には、以下のように分類されている。・・・
┌───糞殼菌/糞玉黴,団殼菌/ボリニア
├───炭角菌/黒采配茸
┤┌──冠嚢菌/コロノフォラ,小嚢菌/ミクロアスクス
└┤┌_/野虫茸
│┌┴肉座菌/釦茸
└┤┌麦角菌
┼┼└┴蛇形虫草/オフィオコルジケプス・・・冬蟲夏草

この手の寄生菌としては、初出は「神農本草経」中品の"白蚕"になるようだ。僵菌が蚕の体内から水分を奪ってミイラ化[]したものである。5世紀の書、雷學所:「雷公炮炙論」中卷になると、さらに"花"が登場する。
どちらにしても、「酉陽雑俎」では無視している。つまり、菌に寄生されているということで、"毒蜂"菌、"白蚕"、"花"を一括りにして「蟲草」と考えてはいないということ。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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