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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.11.4 ■■■

虎の体質

猫についての話は「金鎖錢猫」[→]でとりあげた。
鋭い観察眼を持っていることがよくわかる。

今回は、「續集卷七 金剛經鳩異」の話なので、仏教説話のようなものであり、それとは全く関係ないが、沙彌が虎に遭遇した様子が描かれているので取り上げてみたい。

いかにも猫族らしき様子なので、面白い。

石首縣有沙彌道蔭,常持念《金剛經》。
寶歴初,因他出夜歸,中路忽遇虎吼擲而前。
沙彌知不免,乃閉目而坐,但默念經,心期救護。
虎遂伏草守之。
及曙,村人來往,虎乃去。
視其蹲處,涎流於地。


湖北の石首という地域での話。
まだ具足戒を受けてはいないが、出家したての少年がいた。
その沙彌の名前は"道蔭"。
肌身離さず「金剛経」を持っていた。

寶歴年間
[825-826年]のことである。
よんどころない用事があり外出。
帰りが遅くなり、ついに夜になってしまった。
その途中、突然、虎に遭遇したのである。
虎は吼え、目の前まで跳びかかって来た。
沙彌は、これは逃れるすべなしと観念。
目を閉じて座りこんだ。
そして、ただただ経を黙って念じた。
心の中では、救護を期待して。
すると、虎は草の上に伏せ、じっと沙彌を見守った。

やがて、夜が明けると、
村人達の往来が始まった。
そこで、虎は去って行ったのである。
虎がうずくまっていた場所をみると、
土の上に涎が流れていた。


いかに虎だろうが、無闇に動物を襲うものではない。
動物園での奇譚は数多いと言われており、餌として供した山羊とずっと一緒に生活している虎がいたりする。

毅然とした態度で接すると、それなりの姿勢を見せるとも言われている。無視されたり、支配者然とした姿勢を見せると豹変するが、そうでなければ平和共存を旨としていそう。
それに、興味が湧くと、じっとしていつまでも観察し続けるのも結構好きなのである。

実際、猫は、一定の距離を保ちながら、じっと座ったまま側にいることは少なくない。それは、お知り合いになるための前提条件らしい。そのうち遊んでもよいかナという意思表示でもあろう。
その時間は、猫の個性にもよるらしいが、1時間はざらとか。

成式は、そんな猫社会的風土を好ましいと見ていたのではなかろうか。
言うまでもないが、中華社会には馴染まない。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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