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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.11.9 ■■■

地獄のSynopsis

「卷三 貝編」の冒頭の序文的なところに、地獄について、どのように記載したかが述べられている。・・・

釋門---、八寒八熱地獄等,---入釋者率能言之。
今不復具,録其事尤異者。

仏教が描く世界には---(様々なモノがあり、)---
"八寒"とか、"八熱"と呼ばれる地獄等々が入っているが、
これらは、仏教徒なら概ねご存知だろう。
他の人に説明することもできるだろうから、
今更、それをこの書で繰り返す必要もなかろう。
(と言うことで、)異なコトと見なしても、
それはもっとも、と思われるものだけを収録した。


博物学や民族学のように、網羅的とか俯瞰的にカバーする気などさらさら無いと初めからことわっているのである。
そんなことをしていたら一書できかねない訳だし。
地獄一百三十六。

しかしながら、浅学の身にとっては、地獄についての知識はほとんど無いに等しいというのに、この数ではまともに理解できないと言うことになりかねまい。「酉陽雜俎」を読んだところで、なんだかさっぱりわからないで終わることになってしまうというのでは、止むを得ないとはいえ、余りにつまらぬ。

それも、なんだから、最低限必要な情報は整理しておく必要があろう。

上記の引用でわかる通り、地獄は細かくは136から形成されているが、全体を見渡せば、大枠では"八寒八熱地獄"の16に分かれている。

すでに、書いた通り、八熱地獄はこうなっている。
[H1]【活】活大/等活・・・殺生
[H2]【K繩】・・・〃+偸盗
[H3]【處合】合大/衆合/堆圧・・・〃+邪淫
[H4]【號叫】叫喚・・・〃+飲酒
[H5]【大號叫】大叫喚・・・〃+妄語
[H6]熱】焦熱/炎熱・・・〃+邪見
[H7]【大焦熱】大炎熱・・・〃+犯持戒人
[H8]【阿鼻】阿鼻/無間・・・〃+父母阿羅漢殺害
八寒地獄の方は"八寒地獄,多與常説同。"ということで、通説と同じだとされるが、無知の身には、これでは一寸こまるので、こちらも引いておいた。[→「六道の地獄」]
[C1]部陀】
[C2]【刺部陀】
[C3]听陀 or 阿
[C4]婆 or 阿波波】
[C5]鉢羅 or 嘔侯侯】
[C6]【優鉢羅】
[C7]【鉢特摩 or 波頭摩】
[C8]【摩訶鉢特摩】

それを踏まえて、「卷六 寺塔記下」を見ておきたい。
これだけ読めば、地獄全体像のイメージが湧くといった文章である。


(仏典の地獄記載箇所でのポイントとなる)
語彙を呼び起こしてみようではないか。・・・


地獄等活, (約上人)
熱で苦しめられる活地獄がその典型。[H1]
八抹洛伽, (義上人)
地獄という用語だが、梵語の音の"NaraKa"が正式なもの。
(当て字としては、捺洛迦が普通。)
8種ある。

波咤, (升上人)
(熱せられるのと逆の地獄もある。)
余りの寒さで、阿という最初の言葉を出そうとしても、
波や咤という音になってしまうのだ。
[C4,C3]
壞從獄不生, (柯古)
地獄での鉄則は、すべて壊されていくこと。
そこからは、なにも生まれ無い。

鉛河, (約上人)
そこにあるのは、鉛が流れる河。[H3]
劍林, (義上人)
そして、切り立った剣の林。[H4]
。 (升上人)
銅も溶けてしまう。[H3]

諸上人以予該悉内典,請予獨征:
ここまで来て、諸上人に、仏教経典に頗る詳しいのだから、
その先は独りで作ってくれまいかと請われてしまった。・・・


無中陰,五無間,
地獄には、生と死の間の"中陰"が無い。
しかも、間断ない状態。
 それは5つの点で。

   因果の連鎖が続き途切れが無い。
   苦悶は連続。
   時間の流れが無い。
   命の終わりも無い。
   罪人の絶え間なくやって来る。

K繩赤樹,
地獄の色彩的情景だが、
一つはK繩。大號叫地獄だと赤樹の如き。
[H2,H5]
火厚二百肘,
火の厚味に至っては、200肘にも達する。[H4]
風吹二千年,
一風吹けば、それだけで2000年。
悪風から始まり、---地獄に落ちていくのに2,000年。(如是惡風吹中有人。彼人寒苦。---經二千年皆向下行。)
[正法念處經卷第十三 地獄品之九]
陸陀羅炭,
眼からは火の涙。
そこにさらに陸陀羅炭が詰め込まれる。
[H3]
頭摩赫
赤色の蓮の花である"頭摩"のような火焔に炙られる。[C7]
量五十由旬,
大カマであるの量は50単位にも達する。[H6]
舌長三車
舌の長さは3車[H5]
銅鷲鐵蟻,
火人は銅鷲の腹のなか。鐵蟻にも喰われるまま。[H3]
阿鼻十一義,
阿鼻地獄に行かされるのは11の罪状による。[H8]
九千頭摩
地獄での過ごし様だが、
先の、頭摩の苦にしても、九千回である。
[H8]
如一裟訶麻,百年除一盡。
麻を入れる1籠に胡麻粒を入れた状態を考えてみるがよい。
100年あれば1升除けるから、
全部空にするのにかかる時間は想像がつこう。
1つの苦痛にそれだけの時間あえぎ続けるのである。
[H8]
   (並 柯古)  [卷六 寺塔記下]

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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