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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.11.25 ■■■

4文字風土論

「卷十一 廣知」に「淮南子」出典の話が掲載されていることはすでにお話した。
   「俗言重視」【類生】

同じ話のくりかえしになってしまうが、じっくりとみておきたいので再録。
今村注記も引いておきたいし。・・・

『酉陽雑俎』に記された(「阻險氣多」と言った手の)知識は、---
 後世ひろく、朝鮮にまで伝承されていた。
(このような)表現には、
 風土病のためにが多いことを、
 風土と直接に結び付けて解釈した
古代の医学思想の痕跡が露呈している。


それはそうなのだが、現代の医学的思考は、古代とは違うというアプリオリ的発想は避けたいところ。

現代でも、それほどよく分かっている訳ではないからだ。
例えば、
  「煙草を吸っていると癌になるゾ。」
はよく耳にする言葉。

もちろん、疫学統計結果から、そのように解釈して間違いはなさそうではある。しかし、因果関係の論理を欠いている点に注意を払うべきである。つまり、現時点では医学的に正しいとは言い難いのである。そのように言ったりすると、烈火の如く怒る人が大勢いる。それが、今の偽らざる社会実態である。(間違ってはこまるが、小生は非喫煙者であり、他人に禁煙をお勧めしているクチ。)
喫煙由来の発癌性物質の推定摂取量が、他の方法での摂取量と比べて格段に多いとの証拠が示されていない以上、発癌リスク低減の優先度を高くするのは、理にかなっているとは思えないということ。
しかも、高齢者のみの数字を眺めてみると、煙草を吸わない人の方が発症率が高い。(発見率が高いだけかも知れぬが、母集団の特徴を見る限り、そうとは思でない。)コリャなんなんだとなろう。

古代は医学的発想を欠いているように決めつける人が多いが、現代にしても、4文字風土論のレベルであることを忘れてはなるまい。

煙草気多癌

ついこの間までは、来日した西欧人の日本人の印象とは、華奢で背が低く、互いにお辞儀ばかりしており、なにをするにもえらく動きが遅い人達というもの。
しかし、現代の若者にそのような特徴を見出すのは難しかろう。
要するに、毎日毎日、ミルクを沢山飲んで、十分にカロリーを摂取し、6時間も姿勢を正して椅子に座らせ、スポーツも欠かさずとの義務教育のお蔭で、大きく変わった訳である。

乳気多高

そんな気分で解釈してみた。・・・

山氣多男,
山での経済活動の主体は男性である。
男同士でグループを作って山に入ることになり、
数日、戻らないことも少なくない。
当然ながら、家を運営するのはもっぱら女性。
男の数は多いが、実権を握るのは女という社会。

澤氣多女,
沢沿いは、農耕が基盤。
工夫すれば、余剰が生まれやすい。
土木工事も増え、紛争も多発。
一方で、家事も多くなる。
権力を握るのは男。少数精鋭になりがち。
様々な労働を担うのは大勢の女。

水氣多
潜水を営めば手話が盛んと見てはまずいか。
モンスーン地帯は、穀も菜もよく育つ。
害を与える細菌も活発に蠢いているであろう。
しかし、[=唖:発話障害]は感染症とは無縁だろう。
ただ、自然災害が常態化している地域だ。
社会的に隔絶された境遇の子供が多そう。

風氣多聾,
轟音環境下の労働者と見るのは、無理かも。
これは、風疹を指しているのかも知れない。
今でも、出産時や出産前後の罹患は怖い。
高率での聴覚障害発生が知られている。

木氣多傴,
傴は背をまるく屈める姿勢を指す。
歩荷[ぼっか]仕事をしていれば確実にそうなる。
燃料はもっぱら炭と薪だった時代だ、
樹木多き地の生活者はそうならざるを得まい。

石氣多力,
石切場を抱える地域か。
過重なウエイトリフティング生活である。
道具が今一歩。力持ちだが、間接痛持ち。
粉塵の影響はさほどではなかったかも。

阻險氣多
[=頸部の瘤[こぶ]]とは甲状腺腫では。
虫コブアナロジーの寄生虫由来ではないと思う。
ヨード摂取が関係する風土病の典型。
WHO数値では甲状腺癌は韓国で多発。
ここでは、ヨードが欠乏する山岳地帯を指す。

暑氣多殘,
殘は身体障害を示す。
中枢神経感染症の後遺症が多くみられるということ。
ウイルス性であるから、対策は簡単ではない。
どういう訳か、強毒性は熱帯に多い。

雲氣多壽,
霧がかかる山奥の村落はおおむね長寿とか。
但し、統計的に確証ありという訳ではない。
若者が消えただけとも言える訳で。
適度な食と運動がもたらすとの説が有力。
戦乱を嫌って逃げたきた人だからとも。
空気が清涼だから当たり前と言う人も。
様々な説があり、それぞれに人気あり。

谷氣多痺,
谷筋に住むと麻痺が生じると読むしかない。
強引な説に聞こえるが、一理あり。
頭部打撲症をおう確率が高いからだ。
それは、岩石土砂が不安定だから。
重金属リッチな水を飲むことにもつながる。

丘氣多
とは足萎え。
丘陵地は、山岳部とは異なる。
不自然な格好での労働を強いられることになる。

衍氣多仁,
衍という文字は、敷衍という言葉で知られる。
余分という意味で、余るほど満ち足りた状況。
極めて儒教的な風土観と言えよう。

陵氣多貪。
陵墓の辺りで生活するということは、墓守関連。
尊崇の念で好んで住んでいるとは思えない。
欲深な連中と見なされても致しかたあるまい。
こちらも、宗教と関係しているのかも。

モトネタの劉安:「淮南子」卷四 墜形訓で、原文を削ったり、文字が違っている部分。(納得いかぬ箇所ということか。)・・・
 土地各以其類生,---
  林氣多,---岸下氣多腫,---
  寒氣多壽,穀氣多,丘氣多狂,---。


(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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