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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.11.30 ■■■

乳泉と水

長生の仙薬を作るためにガードマンが必要ということで、道士に放蕩三昧させてもらった男が命を捨ててもその任にあたろうと烈士になり、術士たる道士について中岳に入る話をした。 [→「杜子春の元ネタ」]

そのなかに、中岳[嵩山@河南登封]の描写がでてくる。
鐘乳石から滴り落ちる水が湧いている場所があったのであろう。・・・

遂隨入中嶽。
上峰險絶,巖中有丹竈盆,乳泉滴瀝,亂松閉景。

 [續集卷四 貶誤]

ここの文言だけよく引用されているようなので、「乳泉」という言葉が初出なのかも。

もっとも、現代の名勝とされる地区の、宣伝用として最適ということで広がっているだけかも知れぬが。
 廣西桂平西山乳泉古井
 安徽懷遠白乳泉


場合によっては、次の言葉が付けたされていることも多い。
これこそ最高の水ですゼ、一度はいらっしゃい、ということで。

其水、用山水上、江水中、井水下。
其山水,揀乳泉,石池漫流者上,
其瀑湧湍漱勿食之。

  [陸羽:「茶經」五之煮 水一]

水の評価力ピカ一とされる陸羽に、茶用としては、井戸水は下にされているので、瞬間的には違和感を覚えるが、考えてみれば、それは環境の違いに過ぎまい。大陸の河は日本ではほとんど湖のようなもので、日本の川はさしずめ大陸の滝なのだから。つまり、井戸にしても、大陸では溜まり水的なものになるが、日本の井戸は泉に近い。

なにせ、沖縄を除けば、井戸水はCa/Mg含有量が少ない軟水だらけであり、石灰岩が多い割には岩石層からの溶け込みがえらく少ないことを意味している訳で。
その替わり、重金属が溶けやすいので注意が必要であるが。

成式は酒の水についての話は収録しているが、茶への関心度は低い。茶店や露店での喉の渇きをいやすだけだけと見たか。
と言うよりは、茶はもっぱら寺で僧侶や仲間と飲むものだったのではなかろうか。
従って、茶用の素晴らしい水をあげるとなれば、上記の嵩山なら少林寺だし,観音寺、大明寺、天台山辺りを選ぶことになるのでは。
喫茶は、物理的に味わうより、雰囲気に酔うことの方が愉しかろうということで。

宋代以降は、喫茶が人気となり日常化。そのため、水議論が喧しかったようで、盧山康王谷水簾が天下第一泉と言われたらしい。成式的には盧山東林寺の水ということになろうか。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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