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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.12.6 ■■■

飛頭蛮

胴体から離れ、頭だけが飛んでいく妖怪の話が「卷四 境異」に収録されている。
飛頭(西方野蛮人)と飛頭蛮(南方野蛮人)の両方、合わせて5話。但し、後者の名前は登場しない。

道教圏外の土俗を取り上げていると見てよかろう。

小生は、幽体感覚から生まれたものではなく、夢遊病を象徴化した妖怪ではないかと見る。
南方にこの話が多いのは、蚊が媒介するウイルスで罹患する病気だからでは。

【その1】
「南方異物誌」からの引用らしいと言われている話。しかし、""で、"蛮"ではないから、注意を要する。
嶺南溪洞中往往有飛頭者,故有飛頭子之號。
頭將飛一日前,頸有痕匝,項如紅縷,妻子遂看守之。
其人及夜状如病,頭忽生翼,脱身而去,乃於岸泥尋蟹蚓之類食,將曉飛還,如夢覺,其腹實矣。

嶺南は中国南部〜ベトナム北部地域を指すが、ここは西域。
洞穴中に頭を飛ばす者あり。
"飛頭子"と名付けられている。
頭が飛ぶ前日、うなじに赤い筋痕ができる。
当日の夜になると、病人のような症状を呈し、
忽ちのうちに、頭に翼が生え
[耳が羽か.]、胴から離れ去る。
川岸に行って蟹や蚯蚓の類を泥中から漁って食べる。
明け方になると還ってきて、まるで夢が覚めたような様子。
無自覚だが、その腹は満たされている。


【その2】
唐代には、インドから南海経由の船便で入唐した僧侶も少なくなかったようである。
井魚こと、潮吹き鯨の話[→]をしてくれたことがある僧侶に、南海の土俗として、教えてもらった話。
梵僧菩薩勝又言:
 婆國中有飛頭者,其人目無瞳子,
 聚落時有一人據。

闍婆国[ジャワ島]に、頭を飛ばす者がいる。
有眼無瞳である。
[無分別で狼藉者との意味か.]
集落があれば、そのような人は一人はいるもの。


【その3】
怪奇譚収集書からの引用。
《於氏誌怪》:
 南方落民,其頭能飛。
 其俗所祠,名曰蟲落,因號落民。

南方の"落民"は、頭と飛ばす能力があるとのこと。
土俗的風習から祠に祀られているが、その祠名前は"蟲落"。
そこから、"落民"の名前となった。


【その4】
原典と違う点があるが、とりあえずそこは考えないことにして。
晉朱桓有一婢,其頭夜飛。
晉の朱桓[「捜神記」によれば、呉将軍朱桓]の婢の頭は、
夜、飛び回った、と。


【その5】
怪奇小説から。
《王子年拾遺》言:
 漢武時,因國使南方,有解形之民,
 能先使頭飛南海,左手飛東海,右手飛西澤。
 至暮,頭還肩上。
 兩手遇疾風,飄於海水外。

漢の武帝の時代。國の使者が伝えたという。
南方に身体を分解できる民がいる。
先ずは頭を南方に飛ばし、
次に、左手を東海に飛ばし、右手を西の沢に飛ばした。
夕暮れ時になって、頭は肩の上に還って来た。
両手は途中で疾風に遭って飛ばされてしまい、
海水面上を漂ったままだという。


尚、東南アジアには、女性の生首に胃腸がぶら下がった姿で、空を飛ぶ吸血鬼の話が各地にあり、その同類ではないかと見る人もいる。手を欠くから、吸血とされているだけで、内臓や類似のものを食する場合もあろう。
[南加蘭/Penanggalan@マレーシア, Krasue@タイ, Ahp@カンボジア, kephn@ミャンマー]
日本での紹介のされ方は、轆轤首の発展形というもの。小生は、胴体と頭が解離していない幽霊は、カテゴリーが違うと見る。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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