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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.12.31 ■■■

荷話

蓮の話をとりあげておこう。

望舒草とは、夜咲"蓮花"のことと、成式は知っていたに違いないと書いた。[→]

コレ、憶測で述べた訳ではない。
葉が昼は巻いて、夜開く蓮もあることはもともと知っているのである。縁起でもない話だという意味で記述しているようなものだが、後漢第12代 霊帝/劉宏[在位:168-189年]の時の話で。(宦官が取り仕切る宮廷政治化し、一族の反乱や黄巾の乱が発生し混乱時代と言ってよいだろう。)・・・

荷,漢明帝時,池中有分枝荷,一莖四葉,状如駢蓋。
子如玄珠,可以飾也。
靈帝時,有夜舒荷,一莖四蓮,其葉夜舒晝卷。

  [卷十九 廣動植類之四 草篇]

言うまでもないが、それと対比的に、安定して繁栄していた後漢第2代 明帝/劉荘[在位:57-75年]の頃の蓮も記載しているのである。
この時代に仏教が伝来し、白馬寺創建になったのである。

成式にとって、蓮とは、言うまでもなく、「妙法蓮華經」の象徴である。・・・

(靖善坊大興善寺,)---
素公不出院,轉《法華經》三萬七千部。
 :
有僧玄幽題此院詩,警句曰:
 “三萬蓮經三十春,
  半生不踏院門塵。”

  [續集卷五 寺塔記上]

この、蓮華經三昧の僧は当時の仏教徒には有名だったようである。・・・
 「贈持法華經僧」 齊己[禪師:863-937年]@全唐詩#847
  衆人有口,不説是,即説非。
  吾師有口何所為,蓮經七軸六萬九千字。
  日日夜夜終復始。
  乍吟乍諷何悠揚, 風篁古松含秋霜。
  但恐天龍夜叉乾闥衆,塞虚空耳皆聳。
  我聞念經功コ縁,舌根可算金剛堅。
  他時劫火洞燃後,神光如紅蓮。
  受持身心苟精潔,尚能使煩惱大海水枯竭。
  魔王輪幢自摧折,何況更如理行如理説。


しかしながら、上記の記述では"蓮"ではなく、"荷"が使われている。
今村注記では、注意を払うようにということで説明あり。もともとは、様々な単語があったのに、単純化されてしまったのである。泥水だからこそ、蓮が実るという意義を消し去りたかったということかも。
  荷:総名・・・"型"葉柄植物 荷=艸+何(+𠙵+)
  蓮:実が入った果托全体
  蜂巣・・蓮の果托部分(花床)
  的・・・蓮の実
  ()・・・的の明珠(鳩麦)化
  :蕾
  芙/芙蓉:花
  華・・・一牙
  藕:根全体
  :根の茎が出る箇所
  茄:茎
  :葉

荷,芙渠,其莖茄,其葉,其本,其華,其實蓮,其根藕,其中的,的中
  [「爾雅」釈草 第十三]

その辺りの変化がすでに始まっていた可能性もあろう。
蓮の種類について書いているからだ。・・・

蓮石,蓮入水必,唯煎鹽鹹鹵能浮之。
雁食之,糞落山石間,百年不壞。
相傳橡子落水為蓮。

  [卷十九 廣動植類之四 草篇]

果托が乾燥し固くなると水に沈むらしい。但し、塩水だと浮かぶというから微妙なところだが。
完熟した実は黒色球形でその殻は極めて堅い。そんなところから、山岳部の橡の木の実同類と見られていたのかも。

睡蓮も一種の蓮ということか。

熱帯ではなく、南海[@広東広州]で実際に見た人の話が引用されている。・・・

睡蓮,南海有睡蓮,夜則花低入水。
屯田韋郎中從事南海,親見。

  [卷十九 廣動植類之四 草篇]

立葉か浮葉かと、葉の切れ込みの有無で違いがわかるというのはすぐにわかる。
色が様々というのは、熱帯性睡蓮の特徴。・・・

睡蓮葉如而大,於水,面上有異浮根,菱耳。其花,布葉數重,不房而蘂。凡五種色,當夏晝開,夜縮入水底,晝而復出於水面也。與夢草晝縮入地,遇夜即復復出一何背哉!
(夢草似蒲,色紅。即方朔獻武帝者。孫容穆思密,嘗遺水仙花數本,如摘之於水器中,經年不萎也。)

  [「北戸録」卷第三 睡蓮]

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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